「真白!!」

 真っ赤な光から、真っ黒な闇に包まれた真白。
 光が一切ない、暗黒。
 暗黒球に、真白が飲み込まれたように感じた。

 しかし、そこからボコッと手が飛び出す。

「ワタシハ……誰カラも愛されるベキ・存在」

 暗闇が飛び散って、真っ赤な鱗に包まれた真白が現れた。
 竜人のようで、もう人間ではない事が見てわかる。

「萌黄さん! 下がって! 指輪と同化してしまった……あぁなってはもう人間には戻れない……!」

「真白が妖魔に……」 

「モエギ! 私の海斗ヲウバッタ……死ぬベキ・存在」

 腕が龍のような鱗に覆われて、手は鋭い鈎爪がギラリと光る。
 真白は伸びた首をギロ……と動かして炎を吐いた。

「萌黄……! な、なんだあの化け物は!!!」

 そこに現れる陸一郎。

「兄さん! 真白さんが妖魔化した! 対妖魔軍を呼んでください……!」

 陸一郎と共に追いかけてきたメイドが、助けを呼びに逃げていく。

「なんだと!? 真白が……海斗お前のせいか!?」

「海斗さんは何も悪くありませんわ!」

「いいや、萌黄が私の元から逃げ出したのも、海斗! お前のせいだ!!」

 陸一郎の顔も、何やら醜く歪み、牙が生えて変化しているように見える。

「兄さん!? まさか……あの指輪、そこまでの影響が!?」

「海斗さん、一体何が起きているんですか」

「兄さんまで、真白さんの妖気にあてられて変化しているんだ」

「ギエ……! 萌黄……お前は……私よりカイトを……コロス!」

 醜い心が似ている二人が共鳴しているのだ。 
 陸一郎までが異形の姿になっていく。
 真白の吐いた炎が、屋敷に燃え移る。
 
「このままでは……」

 海斗が刀を抜いた。

「海斗ぉ! シネ!」

 醜く歪んだ顔の陸一郎が、海斗へ襲いかかった。

 真白は陸一郎へ向けて炎を吐く。
 陸一郎が真白の炎を受けて、全身が燃え上がる。

「ギャアア! 真白! 何故だ!」

「オマエなど、海斗を手に入れるための、ただの道具ダッタんだヨ! ウザい死ね!」

「兄さん! 水神乱舞……聖なる流れよ穢れを洗い流せ、清い命を呼び戻さん!」

 海斗が刀を抜いて、詠唱すると刀から聖水が発生する。
 萌黄の魔道具でその力は何倍にも増幅され、凄まじい威力だった。
 陸一郎を焼く炎は消えたが、その場に倒れ込む。

「海斗ォ! もうお前もコロス!」

 更に激しい炎の攻撃を繰り返す真白。

 二人の後ろには影工房。
 そこにも火が迫る。

 屋敷は盛大に燃え始めた。
 
「このままでは近隣の人にも被害が……」

「萌黄さん……辛い判断をしなければなりません」

「……真白を討つと?」

 邪悪な妹……でも死を望んでいたわけではない。
 でも、このままでは真白は妖魔として殺戮を続ける。 

「……海斗さん……お願いいたします……魔道具の加護を貴方に!」

 涙を流して、萌黄は海斗に懇願した。

「承知しました! 邪悪滅せよ……! 御免!」

 萌黄の魔道具によって、力を増した海斗の刀が舞う――!! 
 
「ギヤアアアアアア!」

 やっと消防団や対妖魔軍が、屋敷に到着した。
 真っ黒な夜に、砕けた真白の灰が降り積もる。

「……真白……」

「どうか安らかに……」