「水属性と土属性の玉を同じ護符に使って魔道具に!? そんなことができるのですか!?」

 工房で、海斗の声が響く。
 二人での工房での学びは、萌黄にとって今までの人生で一番楽しい時間かもしれない。
 匠姫と呼ばれていた時も、職人たちに囲まれて強い緊張感があった。

 それが今はのびのびと、海斗と学びながら魔道具を作り上げる毎日。

「え? 外国では、花をそのような使い方を?」

「そうなんです。この花を乾燥させて固めると、それが力のある石のように使えるわけで」

「素晴らしいです! 花で同じような力が出せるのであれば、沢山の方のお力になれますね」

 海斗から教えられた新しい情報は、胸が高鳴るほど嬉しい刺激だ。
 お互いに教えてもらったことを、紙に書き綴る。
 気付けば時間が、何時間も過ぎていた。

「あっ……もうこんな時間に!」

「今日も、時間を忘れてしまいました……でも、お弁当を作っておいたので、食べていただけますか?」

「萌黄姉さんのお弁当!? ありがたく頂きます! やった!」

 おむすびと、卵焼き、芋と蒟蒻の煮転がし、小松菜の胡麻和え。そして、キノコのお味噌汁。

「萌黄姉さんの作ったものはなんでも温かみを感じます。とても美味しいです」

「海斗さんは、本当に人を褒めるのがお上手ですわ」

「いや、大げさに褒めているのではないですよ。こんなお嫁さんがいたら俺は、すごく幸せですよ」

「えっ」

「ゴホッ! いや失礼……」

 海斗が、顔をそむけて咳を誤魔化す。
 萌黄も顔が赤くなっていくことに気付いて『お茶を持ってきますね』と一階に下がった。

 影工房での生活も十日が過ぎた。
 此処に来てから、真白からも陸一郎からも干渉はない。
 メイドが見張っているので、海斗が玄関でわざとに『働けよ!』と怒鳴る成果かもしれない。
 
 海斗は日中は忙しく動いているようだが、食材を届けると共に三食は必ず此処で食べる。
 
 腐った芋や悪くなった米を用意されるらしいが、海斗の友人の庭師が新鮮なものと交換してくれるのだ。

 庭師の男を、影工房に招いて三人で鍋を食べた時も楽しかった。
 男は、萌黄を助けられなかった事を詫びながら、今後は二人の手助けをすると申し出てくれた。

 海斗達によって今は平和な毎日だ。
 より一層感謝しなければ……と海斗の元へ戻ろうとした時、玄関がノックされた。

「ちょっとーー! 萌黄!? 出てきなさいよ! 海斗様ー!? いらっしゃるんですよね!?」

 真白だ!!
 玄関を開けられれば、この影工房が居心地の良い場所だとバレてしまう。
 
「萌黄姉さん……! 俺が出ます。姉さんはニ階へ……」

「は、はい」

 萌黄は海斗の言うままに、ニ階へ駆け上がった。

「真白さん!? こんな汚い場所へ来ては行けない……! さぁ外へ出ましょう」

 海斗が上手に、真白を工房の中へ入らないようにしたらしい。
 萌黄はニ階にある小さな窓から二人の様子を伺った。

「……ですか……ここ……ふけつ……だから」

 かすかに海斗の声が聞こえる。
 多分、此処が不潔なので近寄らないようにと言っているのだ。

「……でも……もえぎが……」

 真白が何か、文句を言っているのだろう。
 あとはもう、海斗に任せるしかない……そう思った時、真白の声が響いた。

「萌黄はとんでもない嘘つきの性悪ですから……惑わされていないか心配で……!」

 また始まった……と萌黄は思う。
 真白は萌黄に好意をもって近づこうとする人達を、悪質な嘘で追い払う。

 先日に、海斗は真白が真っ黒だということを見抜いてくれた。
 海斗を信じている……でも、不安になる。

 結局、真白から執着される事を皆が恐れて萌黄から離れるのだ。

「私が塾をやめたのも、萌黄の嫌がらせに耐えかねてなのです。今度こそ海斗様に教えていただきたいですわ!」

 海斗の声は落ち着いていて小さく、何を言っているかわからない。
 しかし、最後に真白が海斗に抱きついた。