瑠璃のかぞく

 あれからずっと、気まずい空気が続いている。
学校が、唯一の居場所だ。なんだか、少しみっともない。
あの頃に戻ったみたい。
「瑠璃。いってらっしゃい。」
「…」
お母さんは、松崎さんの前では平気をよそおってる。
全く、平気じゃないはずなのに。
あいつのせいで、すべてが奪われた。
体も、心も、愛も。
私は、家族の愛というものがよくわからない。
それどころか、なぜ家族を愛さないといけないのかわからない。
大げさに言って、愛に狂っている。いや、狂ってはいないかもしれない。
あの事情を除いては、ただのどこにもいる中学生かもしれない。
身長も普通くらいで、特別頭がいい訳でもない。残念ながら、顔はあいつ似だ。
あいつのことは、「お父さん」と呼べない。まず、呼びたくない。
私のお父さんは、松崎さんのほうがふさわしいかもしれない。
かすかに、そう思ったー。

「瑠璃、大丈夫?なんかあった?」
真彩がたずねてくる。今の私には、その優しささえ迷惑だ。
「何にもないって!なんでそんなに気にしてくるの。」
友達に、八つ当たりをしてしまった。慌てて後悔する。
「ご、ごめん。なんか…気になっちゃって」
ばつが悪そうに謝る真彩を見たら、居てもたってもいられなくなった。
「ごめん!私が一番ごめん。正直に言います、なんかありました!」
真剣に謝ったつもりだ。なのに、真彩はくすくす笑っている。
「ー何が、あったの?」
「あの人に、会ったんだ。会いたくなかったけど」
ゴクッ。真彩がつばをのむ音が聞こえる。
「あの人、捕まってたの。ー幼女虐待だって。小学三年生の。」
「…セクハラっていうこと?」
「そういうことみたい。で、懲役三年。ちょっとずるいよね。」
「なんで?」
「だって、あの人…有名な弁護士呼んだんだよ。ほら、菊池さんだっけ?よく、テレビ出てる人。」
「その人なら、知ってる。でも、それはちょっと、ずるいね」
「菊池さん、何て言ったか知ってる?裁判の時。」
「もちろん知らないよ。」
「ちょっと、気持ち悪かったんだけど、『この世界では強制的に性虐待をする人がたくさんいます。その中には、あまりにも辛くて、亡くなってしまった人もいます。精神を病んでしまった人もいます。それに比べて原田被告は、中田栄美ちゃんの下校中の様子を観察していただけです。触ってませんよ。観察ですよ。観察の何が悪いんですか。』って言ってたの。」
「えっ…」
「それで、懲役五年から、懲役三年に変わったの。」
あの人は、ずるい。
改めて、そう思った。初めて気づいたわけではない。
今回の事件を機に、もっと、嫌いになっただけだ。