その昔、魑魅魍魎が毎夜都を跋扈していた頃。
人々を助くべく、特異能力を持つものたちが現れた。それが私たち呪術師の始まりだったらしい。
私たちのご先祖である呪術師たちは様々な修行を重ね、星を読んでは天候を予測し、呪術を用いてはあやかしを祓い、人々の生活に寄り添い守ってきた。
そうしてその商いは千年後ーー時代が大正、街が帝都と呼称を変えた今も続いていた。
東雲の一族はその筆頭で、今や他とは比べ物にならないほど成長を遂げていた。世の移り変わりに合わせ、研鑽を重ね続けた成果だった。
私たち秋鈴家も、はるか昔は彼らと肩を並べ戦っていた時代があったらしいのだけれど、その歴史を知るものはもういない。古い文献に数行、ひっそりと記されているのみだ。
そして現在。
東雲家は、自分たちの腕に慢心し没落していった秋鈴家を軽蔑し、秋鈴家は秋鈴家で常に見下してくる東雲家を妬んでいた。
それがどうして突然、結婚なんて話になったのかというと、理由は単純で。
呪術師として劣ってしまった秋鈴家は、それでも豪勢な暮らしを捨てることができず、見栄を張り、借金を繰り返し、とうとう首が回らなくなってしまった。
そこで父は一族を守るため、血の滲むような思いでこの案を練り出したというわけだった。矜持を捨て、東雲家の庇護下に降ろうと。
父は自ら東雲家の当主に頭を下げ、秋鈴家と手を組んでほしいと願い出た。
東雲家は当初、むしのよすぎる話だと難色を示していたらしいのだけれど、決して逆らわないことと『秋鈴家当主の娘』を嫁入りさせることを条件に、呪術師として育成の協力、および金銭面での最低限の援助をすると持ちかけてきた。
まるで人身御供のような縁談だ。
それでも、妾の子で、いるだけで家族を不幸にさせることしかできなかった私が、唯一役に立てる機会でもある。
十七歳になったばかりの春の日。
私は、気に入られはせずともせめて東雲家の方々を不快にさせませんようにと、心から祈っていた。
人々を助くべく、特異能力を持つものたちが現れた。それが私たち呪術師の始まりだったらしい。
私たちのご先祖である呪術師たちは様々な修行を重ね、星を読んでは天候を予測し、呪術を用いてはあやかしを祓い、人々の生活に寄り添い守ってきた。
そうしてその商いは千年後ーー時代が大正、街が帝都と呼称を変えた今も続いていた。
東雲の一族はその筆頭で、今や他とは比べ物にならないほど成長を遂げていた。世の移り変わりに合わせ、研鑽を重ね続けた成果だった。
私たち秋鈴家も、はるか昔は彼らと肩を並べ戦っていた時代があったらしいのだけれど、その歴史を知るものはもういない。古い文献に数行、ひっそりと記されているのみだ。
そして現在。
東雲家は、自分たちの腕に慢心し没落していった秋鈴家を軽蔑し、秋鈴家は秋鈴家で常に見下してくる東雲家を妬んでいた。
それがどうして突然、結婚なんて話になったのかというと、理由は単純で。
呪術師として劣ってしまった秋鈴家は、それでも豪勢な暮らしを捨てることができず、見栄を張り、借金を繰り返し、とうとう首が回らなくなってしまった。
そこで父は一族を守るため、血の滲むような思いでこの案を練り出したというわけだった。矜持を捨て、東雲家の庇護下に降ろうと。
父は自ら東雲家の当主に頭を下げ、秋鈴家と手を組んでほしいと願い出た。
東雲家は当初、むしのよすぎる話だと難色を示していたらしいのだけれど、決して逆らわないことと『秋鈴家当主の娘』を嫁入りさせることを条件に、呪術師として育成の協力、および金銭面での最低限の援助をすると持ちかけてきた。
まるで人身御供のような縁談だ。
それでも、妾の子で、いるだけで家族を不幸にさせることしかできなかった私が、唯一役に立てる機会でもある。
十七歳になったばかりの春の日。
私は、気に入られはせずともせめて東雲家の方々を不快にさせませんようにと、心から祈っていた。

