その後、ここ数ヶ月世間を騒がせていた事件に秋鈴が手を貸していたことが明るみとなり、義母と雪音はお縄となった。ふたりは北方の僻地に送られ、数年は呪詛師として酷使されるらしい。
事件が収束を迎えた頃、父は私と千賀高さまに頭を下げにきた。
妻と娘が本当に申し訳ないことをしたと、菓子折りを持って。


「本当に、私の家族がお騒がせしました」
「いえいえ。これくらいなんてことありません」

父からもらった羊羹を切り分け、私と千賀高さまはのんびりと縁側に腰掛けていた。
空は快晴。庭師さんが整えた紫陽花が溢れんばかりに咲き誇っていた。

「それに、俺の家族でもありますから」

柔らかく微笑まれ、私は「そうでした」と微笑み返す。

事件の委細を、私は可能な限り千賀高さまから聞かせてもらった。
義母と雪音には数週間前から嫌疑がかかっていて、千賀高さまが雪音を自宅まで送っていたのも捜査の一環だったらしい。

「少し妬いていました」

と打ち明けると、千賀高さまは「すみません」と眉尻を下げる。

失くしたと思っていた指輪は雪音が盗んでいたそうで、騒動のあと、取り返してくださった千賀高さまがまた左手の薬指に通してくれた。
今も指に光るそれは、私の大切な宝物だ。

そよそよと風が吹く。

私は手の中で湯呑みを転がしながら、先ほど見た父の目を思い出していた。そこには深い後悔と懺悔、そして悲しみが根付いていた。
これは憶測だけれどーー父がいつも何も言わなかったのは、私を庇えば義母が傷つき、雪音を可愛がれば私が傷つくと思ったからなのかもしれない。言葉には力があるから、父は何も言えなくなってしまったのだ。
でも、そんな父の臆病が千賀高さまとの縁を呼び寄せてくれた。ものごとは全てが全てうまくいくわけじゃない。けれど悪い事ばかりではない。良い未来に繋がることもあるのだ、きっと。

千賀高さまが眩しそうに空を見上げる。

「夏が来ますね」
「そうですね」

爽やかな新緑が香り、季節はまた移ろう。
この縁がどうか、どうか、末長く続きますように。私は心からそう願った。


(おしまい)