千賀高さまはもしかして、雪音のような明るく話のうまい女性の方がお好きなのだろうか。
数日後。私は呪術の勉強をしながらもそんなことばかりを考えてしまっていた。
あれ以来、雪音が訪れるたびに千賀高さまは家までの送迎を買ってでていた。亜子さんのお話では、千賀高さまは生来おやさしい方だそうだから、なんの他意もないのかもしれない。それでも千賀高さまが雪音に微笑みかけ、雪音の話に笑うたび、私の胸はぎゅうっと苦しくなった。
千賀高さまは私の旦那さまなのに、なんて子供じみた独占欲が滲み出ていた。

そんなある日。私は千賀高さまからお祭りに行きませんかと誘われた。
結婚式をあげたお社で行われる、一年に一度の盛大なもので、私も毎年こっそりと楽しみにしていた。

「行きます、行きたいです」
「よかった。それじゃあ夕時、桟橋のところで落ち合いましょう」
「はい、楽しみにしています」
「俺もです」

結婚して初めてのお祭りに、私の心はふわふわと浮き立つ。亡き母から譲り受けた白地に朝顔柄の浴衣を虫干しし、その日が来るのを指折り待った。
髪飾りは雪音に壊された簪しか持っておらず、どうにかならないかと、私は懸命に鑢で形を整えた。歪だが、おかしくはない程度までになってほっと胸を撫で下ろす。祭りは夜だから、そこまで凝視はされないだろう。

「楽しみだわ」

つぶやいて、手の中の簪を胸に抱く。千賀高さまを想う時に感じるようになったこのあたたかさ。その正体に気づき始めていた。