呪術と一口に言っても、その技は多種多様だ。
単純な呪いや複雑な術式、高度なものには式神の使役などがあって、千賀高さまはどの分野にも精通していた。天才と謳われる所以なのだろう。

呪術を教えてほしいという私の無謀な頼みを、千賀高さまは快く引き受けてくださった。
人手がほんとうに足りないのだとも打ち明けてくれ、勇気を出してよかったと安堵する。

昨日今日でいきなりあやかしに太刀打ちすることはできないから、まずは簡単な、それこそ自分の身を守ることができるような方法から教わることになった。

「一緒に暮らしていて感じたのですが、小夜さんは『目』に特に力があるように思います。ですから『遠見』や『暗示』に特化する技を身につけるのがいいかなと」
「『目』ですか」

特訓を開始したその日。
お屋敷の一室に向かい合った私と千賀高さまは、彼が用意したたくさんの呪術書を前にしていた。

千賀高さまがおっしゃるには、私の『目』はあやかしを検知する力に秀でているようで、その分野を伸ばしていくのがいいとのお話だった。
それから私は家事の合間を縫い、呪術の勉強を始めた。
わからないことは千賀高さまや佐武さんに伺い、まずは基礎とあやかしの見分け方を身につけていく。
意識すれば確かに、昼間でも街のあちこちにあやかしの気配を感じとれるようになった。
祓うまでは至らないものの、激昂している男性の背後に取り憑いている霊や、具合の悪そうな人の肩に餓鬼が乗っていることなどに気づく。
千賀高さまにそれらを報告すると、以前渡された護符なら大抵のあやかしは祓えると言われた。ただ、その線引きが難しいから、祓う時は必ず千賀高さまか佐武さんがそばにいる時にしてくださいと念を押された。

そうして初めてお祓いが成功した日。私は千賀高さまにそれはもう大袈裟に褒められた。

それは彼の数少ない非番の日のことだった。
ふたりで近所を散歩していた最中、道端にうずくまるおばあさんを見かけ、そこにあやかしが取り憑いているのがわかったから、千賀高さまの許可を得、おばあさんの背中をさするふりをして護符をあやかしに近づけたのだ。
目が合ったあやかしは『ぎゃっ』と短い声をあげると煙のように消えていった。
おばあさんは呼吸が軽くなったと何度も何度もお礼を言って、おまんじゅうまでもらってしまった。

家に持ち帰り、千賀高さまと亜子さんと三等分で食べたその味は格別で、私は一生忘れられないだろうと感じた。

何より、にこにこと嬉しそうに私を見つめ続けてくる千賀高さまのお顔が素敵すぎて、その夜は眠ることも難しかった。

いらない子供だと言われ続けた私にも、できることがあった。人の役に立てた。
嬉しい、嬉しいと布団に潜り思いっきり笑顔を浮かべる。

そういえば、「小夜さんの笑ったところを初めて見ました」と千賀高さまと亜子さんに言われた気がした。
そうなのだろうか。
私ははたと我に帰り、油断するとまた緩んでしまう頬を抑える。

だから千賀高さまもあんなに嬉しそうにしてくださっていたのだとしたら、私もとても嬉しかった。