「かんぱーい!遼くん二十歳おめでとー!」
「えへへ、ありがとう真澄くん」
「今日は飲むぞー!」
「真澄くん明日バイトでしょ?たくさん飲んで大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。俺、翌日に響かない体質だから!そうだ遼くん、明日、映画見に行こうよ。今話題のやつ!」
「いいけど、僕、裸眼じゃ全然見えないよ」
「あぁそっか。じゃあ、明日はコンタクトつけて出掛けようよ」
「え……」
遼の表情に少し翳りが見えた。コンタクトをつけるということは、視界がクリアになるということだ。周りの視線もはっきりと認識することになる。帽子を被っているとはいえ、遼にはまだそこまでの勇気は出ないのだろう。
「あー……そうだよね、まだ怖いよね」
「うん……、それに――」
複雑そうな笑みが彼の頬に浮かぶ。
「コンタクトつけるってことは、真澄くんに手を繋いでもらう必要が、なくなるんだなって思って」
手を繋ぐ必要がなくなる。そう言われて、真澄は不意に自分の手のひらを眺めた。
思えば、こうやって毎日顔を合わせて過ごせる日も、あと一週間を切っている。遼の眼鏡が届けばこの生活も終わりだ。三週間なんて本当にあっという間だった。
弁償代の代わりに受けた依頼だったが、遼と過ごした日々は毎日が楽しくて、遼のことを知れば知るほど、胸の奥には鮮やかな彩りが増していった。今ではこの日常が終わってしまうことが寂しいとさえ思う。
遼の言葉で、改めて終わりが近付いていることを感じた真澄は、寂しさと同時に胸の奥に何かもう一つの感情があるように思えた。けれど、それをどう言い表したらいいのか分からない。知りたい。でも――。心の奥にあるその感情は、開けてはいけないパンドラの箱のような、そんな気もする。
お腹も満たされ、久しぶりにペースを上げてお酒を飲んだせいか、真澄はふわふわと心地よい感覚に覆われた。酔いと、くすぶる心の内が相まって思わずぽつりと言葉が出た。
「……俺、ずっと遼くんの傍に居たい」
間を置いて、自分から出た言葉にハッとする。弁解するように慌てて両手をブンブンと振った。
「あ、いや!今のはその、依頼期間が終わっても、またこうやって一緒にご飯食べたり出掛けたりしたいなって意味で!あははっ!言葉のあやってやつ?そもそも新しい眼鏡届いたら俺ここに居る必要もなくなるのに、ずっと傍にだなんて、俺、何言ってんだろ!」
先ほどの言葉を飲み込むように、真澄はお酒を一気に飲み干した。
遼は持っていたお酒の缶を置くと、真澄へ向けて真っ直ぐ視線を送った。
「僕も、ずっと真澄くんの傍に居たいって思ってるよ」
「……え」
そう言って見つめる遼の眼差しは真剣そのものだった。熱を帯びた、艶やかな瞳。吸い込まれるような麗しい黒色の光に、目を逸らすことができない。
「真澄くんのことが好きだから」
これは酔いが回っているせいなのだろうか。顔が、体が、火照って熱い。胸の鼓動が段々と大きく聞こえてくる。変化球のない真っ直ぐな言葉が、真澄の酔いを加速させる。
「あ……、あははっ。遼くん本当に俺の声好きだよね。自分のファンがいるって、こういう感じなんだなって初めて実感したよ」
「ファン……そうだね、僕も最初はそうだったのかもしれない。でも、今は……」
遼は、おもむろにこたつを抜けだした。真澄の傍まで辿るように寄ると左手を伸ばし真澄の頬を撫でた。彼に触れられた所が段々と熱を帯びていく。
「真澄くんの顔、よく見せて。ぼやけて見えないんだ。もっと近くで見たい」
次第に距離が縮まっていく。艶のある漆黒の瞳は真澄だけを映し出す。細く長い睫毛が揺れると、その端麗な目元は一層際立った。
このままでは顔が触れ合ってしまう。じりじりと後ずさりをするも、遼はお構いなしに体を寄せてくる。支えきれなくなった体は、ついにバランスを崩した。天井の景色に遼の姿が映り込む。
「遼くん……?」
「あの時と逆だね」
「あの、時……?」
「真澄くんが、ここで僕のために朗読してくれた、あの時。僕は涙が溢れて止まらなくなったよ。心から真澄くんの声が大好きだって思ったんだ。同時に、もっと真澄くんに触れていたいって思った」
遼の手が真澄の前髪を優しくかき上げる。柔らかな真澄の髪が彼の指にふわりと絡んでいく。遼は愛おしそうに撫で上げると、その指を頬まで滑らせ、形をなぞるように真澄の耳に触れた。
「っ!遼くん、どうしたの……?もしかして、だいぶ酔ってる?」
ずっと大音量で流れる心臓の音。脈打つその振動が全身に響き渡る。体中が熱くてたまらない。これは本当にお酒のせいなのか。
それよりも、遼の様子が何だかおかしい。あどけなさが完全に消えている。先ほどとはまた違った雰囲気だ。首筋から鎖骨にかけてのライン、輪郭。声色、息遣い。指先の動きに至るまで、どれも艶と色気が漂っている。
真澄は思わずごくりと喉を鳴らした。長身の遼は、細見だが肩幅は真澄よりも広い。遼は覗き込むように真澄の体を覆った。真澄に注がれる部屋のライトは遼の影で完全に遮られた。代わりに注がれるのは熱のこもった遼の甘い視線。触れていた彼の手が、まるで逃がさないと言っているかのように、ゆっくりと真澄の手首をなぞるように掴んだ。
いつも繋いでいたはずなのに、今さらになって気付く。彼の手は大きくて、しっかりと厚みがあり、指の節はごつごつと骨ばっている。まぎれもなく、男の手だ。
「そうだね、これが酔ってるっていう感覚なのかもしれない。でもね、こんな内気な僕だけど、真澄くんの前では少し大胆になれるんだ。こんな自分が居たなんて、自分でも驚いてるよ」
遼の顔が再び近づく。おでこが触れ合い、鼻が触れ合う。熱い。触れた所から熱がじんじんと伝わってくる。
「真澄くんが好き。声だけじゃない、真澄くんの笑顔も心も全部好き。真澄くんの全部を独り占めしたい」
心臓が爆発しそうで、もう耐えられなかった。遼の唇が触れそうになると、真澄は思わずぎゅっと目を瞑った。
しかし、次に感じたのはズシリとのしかかる全身の重みだった。そろりと目を開けて視線を横に向けると、そこには寝息を立てている遼の姿があった。気の抜けた顔でスヤスヤと、本気で寝ている。
「は……?」
こんな、心臓が飛び出るようなことをしておいて、勝手に寝るだなんてそれはないだろう。
――ていうか今の流れ、キスじゃなかったんかい!
真澄は心の中で全力でツッコミを入れた。緊張して損した。溜め息を一つ吐いて、そして気づく。今、キスされなかったことを残念に思った自分がいた、と。
一瞬で顔の熱が上昇した。そんなまさか。キスされることを期待していたというのか。真澄は頭を抱えて混乱した。遼は友達だ。三週間近く衣食住を共にしただけの友達だ。確かに遼と過ごした日々は面白くて楽しくて飽きることがなかった。好きだと言われたのも声だ。遼はただ、自分のファンだっただけだ。
――真澄くんが好き。声だけじゃない、真澄くんの笑顔も心も全部好き。真澄くんの全部を独り占めしたい。
遼の言葉が頭の中でリフレインする。真澄は思わず頭をガシガシとかき乱した。
顔が熱い。胸が熱い。頭が混乱する。
「あーもう、何なんだこれ!」
気付いたら朝日が昇っていた。ろくに睡眠が取れなかった真澄は、いかにも睡眠不足というような顔つきで洗面所へ向かった。あれから気を紛らわすように食器を片付け、ゴミを分別し、遼をベッドに運んで自分も早々に床へ就いた。しかし、頭の中はぐるぐると同じことを考えてしまう。寝ることなんてできやしなかった。
降り注ぐシャワー。少しは頭がスッキリするかもしれない。そう思ってお風呂に入ってみたが、冴えた頭は昨日の記憶を鮮明に蘇らせるだけだった。
そもそも、あの言葉自体どう受け止めたらいいのか分からない。友達として、ファンとして好いてくれている、そういう意味だと思って過ごしてきた。ただ、昨日の遼は何かが違った。普段とは違う強引さがあって、大胆で、距離感がいつも以上に近くて――。
遼の溶けるような熱い眼差しと、触れそうになった唇が再び脳裏に浮かび上がる。真澄は咄嗟にお風呂の壁に頭を打ち付けた。
結局、考えても埒が明かない。それならいっそ本人に聞いてしまうのが一番早い。真澄はお風呂から上がると遼の元へ突撃した。
「遼くん!」
ちょうど目を覚ましたところだったのか、彼は体を起こして目元をこすりながらあくびを一つしていた。しかし、いざ聞こうとすると緊張してしまうものだ。さっきまでの勢いが途端に怯んでしまった。
真澄の姿に気付いた遼は眠気眼でふにゃりと笑う。その顔が、無邪気で愛らしいと思ってしまう自分がいて、何だか悔しい。
「おはよう真澄くん。起きるの早いね」
「お……おはよ」
何となく目を合わせづらくて、真澄は視線をずらして返事をした。頬がまた火照ってきた。きっとシャワーを浴びたからだ。そう自分に言い聞かせる。
「……あのさ、遼くん。昨日のことなんだけど……」
「昨日?」
「だから……昨日、ほら、晩ご飯一緒に食べてお酒飲んで色々話して……それで……」
「え……?」
「え?」
不自然な反応に思わず真澄も聞き返す。しばらく沈黙が続いたあと、遼の顔が段々と青ざめていった。
「ごめん……僕、真澄くんに何かした……?」
「……は?」
「昨日、昨日だよね、えっと……晩ご飯はお鍋で、真澄くんと一緒にお酒飲んで食べて、それで……そこから……」
遼は頭を押さえながら目を泳がせていた。やがて、顔面蒼白となったその顔を恐る恐る真澄に向けて言った。
「ごめん、記憶がない……」
「はあああああああ!?」
真澄はほとんど反射で叫んでいた。その声に遼はビクリと体を強張らせる。
「ええっ!やっぱり僕、真澄くんに何かしたんだね!?嫌われるようなこと、しちゃったんだね!?ごめんっ!ごめんね!」
「してないわ!むしろ何もされなかったわ!」
頭を抱えて背中を反る真澄。そして沸々と苛立ちが湧き上がってくるのを感じた。
「じゃ、じゃあ何でそんなに怒ってるの……?」
「俺が知るかー!」
「えへへ、ありがとう真澄くん」
「今日は飲むぞー!」
「真澄くん明日バイトでしょ?たくさん飲んで大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。俺、翌日に響かない体質だから!そうだ遼くん、明日、映画見に行こうよ。今話題のやつ!」
「いいけど、僕、裸眼じゃ全然見えないよ」
「あぁそっか。じゃあ、明日はコンタクトつけて出掛けようよ」
「え……」
遼の表情に少し翳りが見えた。コンタクトをつけるということは、視界がクリアになるということだ。周りの視線もはっきりと認識することになる。帽子を被っているとはいえ、遼にはまだそこまでの勇気は出ないのだろう。
「あー……そうだよね、まだ怖いよね」
「うん……、それに――」
複雑そうな笑みが彼の頬に浮かぶ。
「コンタクトつけるってことは、真澄くんに手を繋いでもらう必要が、なくなるんだなって思って」
手を繋ぐ必要がなくなる。そう言われて、真澄は不意に自分の手のひらを眺めた。
思えば、こうやって毎日顔を合わせて過ごせる日も、あと一週間を切っている。遼の眼鏡が届けばこの生活も終わりだ。三週間なんて本当にあっという間だった。
弁償代の代わりに受けた依頼だったが、遼と過ごした日々は毎日が楽しくて、遼のことを知れば知るほど、胸の奥には鮮やかな彩りが増していった。今ではこの日常が終わってしまうことが寂しいとさえ思う。
遼の言葉で、改めて終わりが近付いていることを感じた真澄は、寂しさと同時に胸の奥に何かもう一つの感情があるように思えた。けれど、それをどう言い表したらいいのか分からない。知りたい。でも――。心の奥にあるその感情は、開けてはいけないパンドラの箱のような、そんな気もする。
お腹も満たされ、久しぶりにペースを上げてお酒を飲んだせいか、真澄はふわふわと心地よい感覚に覆われた。酔いと、くすぶる心の内が相まって思わずぽつりと言葉が出た。
「……俺、ずっと遼くんの傍に居たい」
間を置いて、自分から出た言葉にハッとする。弁解するように慌てて両手をブンブンと振った。
「あ、いや!今のはその、依頼期間が終わっても、またこうやって一緒にご飯食べたり出掛けたりしたいなって意味で!あははっ!言葉のあやってやつ?そもそも新しい眼鏡届いたら俺ここに居る必要もなくなるのに、ずっと傍にだなんて、俺、何言ってんだろ!」
先ほどの言葉を飲み込むように、真澄はお酒を一気に飲み干した。
遼は持っていたお酒の缶を置くと、真澄へ向けて真っ直ぐ視線を送った。
「僕も、ずっと真澄くんの傍に居たいって思ってるよ」
「……え」
そう言って見つめる遼の眼差しは真剣そのものだった。熱を帯びた、艶やかな瞳。吸い込まれるような麗しい黒色の光に、目を逸らすことができない。
「真澄くんのことが好きだから」
これは酔いが回っているせいなのだろうか。顔が、体が、火照って熱い。胸の鼓動が段々と大きく聞こえてくる。変化球のない真っ直ぐな言葉が、真澄の酔いを加速させる。
「あ……、あははっ。遼くん本当に俺の声好きだよね。自分のファンがいるって、こういう感じなんだなって初めて実感したよ」
「ファン……そうだね、僕も最初はそうだったのかもしれない。でも、今は……」
遼は、おもむろにこたつを抜けだした。真澄の傍まで辿るように寄ると左手を伸ばし真澄の頬を撫でた。彼に触れられた所が段々と熱を帯びていく。
「真澄くんの顔、よく見せて。ぼやけて見えないんだ。もっと近くで見たい」
次第に距離が縮まっていく。艶のある漆黒の瞳は真澄だけを映し出す。細く長い睫毛が揺れると、その端麗な目元は一層際立った。
このままでは顔が触れ合ってしまう。じりじりと後ずさりをするも、遼はお構いなしに体を寄せてくる。支えきれなくなった体は、ついにバランスを崩した。天井の景色に遼の姿が映り込む。
「遼くん……?」
「あの時と逆だね」
「あの、時……?」
「真澄くんが、ここで僕のために朗読してくれた、あの時。僕は涙が溢れて止まらなくなったよ。心から真澄くんの声が大好きだって思ったんだ。同時に、もっと真澄くんに触れていたいって思った」
遼の手が真澄の前髪を優しくかき上げる。柔らかな真澄の髪が彼の指にふわりと絡んでいく。遼は愛おしそうに撫で上げると、その指を頬まで滑らせ、形をなぞるように真澄の耳に触れた。
「っ!遼くん、どうしたの……?もしかして、だいぶ酔ってる?」
ずっと大音量で流れる心臓の音。脈打つその振動が全身に響き渡る。体中が熱くてたまらない。これは本当にお酒のせいなのか。
それよりも、遼の様子が何だかおかしい。あどけなさが完全に消えている。先ほどとはまた違った雰囲気だ。首筋から鎖骨にかけてのライン、輪郭。声色、息遣い。指先の動きに至るまで、どれも艶と色気が漂っている。
真澄は思わずごくりと喉を鳴らした。長身の遼は、細見だが肩幅は真澄よりも広い。遼は覗き込むように真澄の体を覆った。真澄に注がれる部屋のライトは遼の影で完全に遮られた。代わりに注がれるのは熱のこもった遼の甘い視線。触れていた彼の手が、まるで逃がさないと言っているかのように、ゆっくりと真澄の手首をなぞるように掴んだ。
いつも繋いでいたはずなのに、今さらになって気付く。彼の手は大きくて、しっかりと厚みがあり、指の節はごつごつと骨ばっている。まぎれもなく、男の手だ。
「そうだね、これが酔ってるっていう感覚なのかもしれない。でもね、こんな内気な僕だけど、真澄くんの前では少し大胆になれるんだ。こんな自分が居たなんて、自分でも驚いてるよ」
遼の顔が再び近づく。おでこが触れ合い、鼻が触れ合う。熱い。触れた所から熱がじんじんと伝わってくる。
「真澄くんが好き。声だけじゃない、真澄くんの笑顔も心も全部好き。真澄くんの全部を独り占めしたい」
心臓が爆発しそうで、もう耐えられなかった。遼の唇が触れそうになると、真澄は思わずぎゅっと目を瞑った。
しかし、次に感じたのはズシリとのしかかる全身の重みだった。そろりと目を開けて視線を横に向けると、そこには寝息を立てている遼の姿があった。気の抜けた顔でスヤスヤと、本気で寝ている。
「は……?」
こんな、心臓が飛び出るようなことをしておいて、勝手に寝るだなんてそれはないだろう。
――ていうか今の流れ、キスじゃなかったんかい!
真澄は心の中で全力でツッコミを入れた。緊張して損した。溜め息を一つ吐いて、そして気づく。今、キスされなかったことを残念に思った自分がいた、と。
一瞬で顔の熱が上昇した。そんなまさか。キスされることを期待していたというのか。真澄は頭を抱えて混乱した。遼は友達だ。三週間近く衣食住を共にしただけの友達だ。確かに遼と過ごした日々は面白くて楽しくて飽きることがなかった。好きだと言われたのも声だ。遼はただ、自分のファンだっただけだ。
――真澄くんが好き。声だけじゃない、真澄くんの笑顔も心も全部好き。真澄くんの全部を独り占めしたい。
遼の言葉が頭の中でリフレインする。真澄は思わず頭をガシガシとかき乱した。
顔が熱い。胸が熱い。頭が混乱する。
「あーもう、何なんだこれ!」
気付いたら朝日が昇っていた。ろくに睡眠が取れなかった真澄は、いかにも睡眠不足というような顔つきで洗面所へ向かった。あれから気を紛らわすように食器を片付け、ゴミを分別し、遼をベッドに運んで自分も早々に床へ就いた。しかし、頭の中はぐるぐると同じことを考えてしまう。寝ることなんてできやしなかった。
降り注ぐシャワー。少しは頭がスッキリするかもしれない。そう思ってお風呂に入ってみたが、冴えた頭は昨日の記憶を鮮明に蘇らせるだけだった。
そもそも、あの言葉自体どう受け止めたらいいのか分からない。友達として、ファンとして好いてくれている、そういう意味だと思って過ごしてきた。ただ、昨日の遼は何かが違った。普段とは違う強引さがあって、大胆で、距離感がいつも以上に近くて――。
遼の溶けるような熱い眼差しと、触れそうになった唇が再び脳裏に浮かび上がる。真澄は咄嗟にお風呂の壁に頭を打ち付けた。
結局、考えても埒が明かない。それならいっそ本人に聞いてしまうのが一番早い。真澄はお風呂から上がると遼の元へ突撃した。
「遼くん!」
ちょうど目を覚ましたところだったのか、彼は体を起こして目元をこすりながらあくびを一つしていた。しかし、いざ聞こうとすると緊張してしまうものだ。さっきまでの勢いが途端に怯んでしまった。
真澄の姿に気付いた遼は眠気眼でふにゃりと笑う。その顔が、無邪気で愛らしいと思ってしまう自分がいて、何だか悔しい。
「おはよう真澄くん。起きるの早いね」
「お……おはよ」
何となく目を合わせづらくて、真澄は視線をずらして返事をした。頬がまた火照ってきた。きっとシャワーを浴びたからだ。そう自分に言い聞かせる。
「……あのさ、遼くん。昨日のことなんだけど……」
「昨日?」
「だから……昨日、ほら、晩ご飯一緒に食べてお酒飲んで色々話して……それで……」
「え……?」
「え?」
不自然な反応に思わず真澄も聞き返す。しばらく沈黙が続いたあと、遼の顔が段々と青ざめていった。
「ごめん……僕、真澄くんに何かした……?」
「……は?」
「昨日、昨日だよね、えっと……晩ご飯はお鍋で、真澄くんと一緒にお酒飲んで食べて、それで……そこから……」
遼は頭を押さえながら目を泳がせていた。やがて、顔面蒼白となったその顔を恐る恐る真澄に向けて言った。
「ごめん、記憶がない……」
「はあああああああ!?」
真澄はほとんど反射で叫んでいた。その声に遼はビクリと体を強張らせる。
「ええっ!やっぱり僕、真澄くんに何かしたんだね!?嫌われるようなこと、しちゃったんだね!?ごめんっ!ごめんね!」
「してないわ!むしろ何もされなかったわ!」
頭を抱えて背中を反る真澄。そして沸々と苛立ちが湧き上がってくるのを感じた。
「じゃ、じゃあ何でそんなに怒ってるの……?」
「俺が知るかー!」

