九頭龍家は二つある。
一つは昔まで使っていた古い旧館で一つは新しく新築したもの。

「ただいま」
「おかえりなさいませ!」

幸華は迷わず旧館に入れば奥からは出迎えに人がやって来る。

「姫様、お勤めご苦労様です」
「コク、お出迎えありがと」

コクは九頭龍家に使えるメイドの一人。
白いおかっぱ頭の少女の見た目をしていながら実は白蛇の妖。青龍家が援助を申し出た際、史文が幸華にとつけてくれた御用人の一人だった。日中は学校に通う幸華の代わりに旧館を守ってくれている。

「先程、倫太郎様が旧館に来ました」
「私もさっき玄関で会ったよ。史文様とも会ったけど」

結局、誕生日プレゼントは姉に取られちゃったけど。

「あれ?ハクは?」

旧館にはもう一人、コクの双子の兄・ハクも仕えていた。
同じく白蛇の妖であり、幸華の御用人。
龍は蛇の化身。
そのため蛇の妖と龍の一族は相性が良く、古くから蛇は龍に仕える一族として有名だ。

「ハクは倫太郎様の護衛に。帰りは遅くなるそうです。新館の方には行かれましたか?」
「ううん」

幸華は基本この家に一人だった。
父親は普段から店の切り盛りで忙しいし、幸舞は新館で異母と二人、父親のいない空間で好き勝手に過ごしては何かと幸華を呼び出す機会も多い。幸舞は会えば突っかかってくるし、異母は不義の子と呼んで幸華を腫れ物扱い。

この旧館に幸華を追い出したのも千鶴さんだ。
新館を建てて直ぐ、幸華を旧館へと追い出した。
止めようとした父・兄の意向も遮って幸華も二つ返事でそれを了承した。そうでなければあの地獄のような空間に一人取り残されるのだけは我慢できなかったから。

「幸いにもコクとハクがいてくれるし。新館には青龍家の御用人が派遣されて身の回りの世話をしてるそうじゃん?」
「ええ、日中になると逃げるように旧館に逃げ込んで来ますよ」

コクはウンザリした顔で彼女達の愚行を口にする。
内容はやはり、彼女達の御用人達に対する態度だ。稀血の花嫁である幸舞と彼女を産んだ母親。この二つの立場から青龍家直属に仕える妖でさえ見下してるというのだ。

「彼らもいい迷惑です。我ら蛇族には金運の力が備わってるからって」
「金運?」
「私達は白蛇ですから。人間と暮らすだけで自然とその家には金運が舞い込むんですよ。青龍家はそのトップです。青龍家の加護と白蛇の金運。これら二つを同時に取得する九頭龍家は人間界でも無敵ではあります」

それだけ妖・神の庇護を受けるという行為は凄まじく強運。
数億単位の宝くじが毎日当たってるような感覚。

「ですが彼女達はそれを見誤ってるんです。自分達は偉いと勘違いしている」

幸舞は確かに稀血の花嫁としても有名だけど。
それが妖相手に何をしてもいい理由にはならない。
これでもしも青龍家からの援助が切れるようなことがあれば。

「ねえコク、もしも五摂家の怒りを買った場合ってどうなるの?」

恐れ多くも神に近い五摂家から援助を授かってる。
それが無効になった場合、人間側へ注がれた神力の影響をもろに受けた場合には何が起こるか計り知れない。

「間違いなく死刑ですね。まあ誰しも神を怒らせれば例えそれが妖だろうと五摂家相手にはまず敵いません」
「うぅ…怖い」
「姫様⁈ご安心下さい!もしもの場合には姫様だけでも白蛇族が保護致しますので!!」
「それもそれでちょっと…」

コクの言葉に笑ってしまいそうになる。
幼馴染、その理由だけで史文は自分の元御用人だったコク達を幸華の側に置いてくれた。幸華にとっては数少ない友達でもあった。