幸華の母と父は幼馴染だった。
互いに想い合い、将来を誓い合っていた仲ではあったが間もなくして父は別の女性と結婚することになった。それが幸舞の母・千鶴(ちづる)さんだった。

「じゃあまたね、幸華」
「いい子にしてるんだぞ?」

二人が行ってしまえば途端に幸舞の矛先が向く。

「なんなのよあれ!私には挨拶すら…」
「お姉ちゃん…」
「気安く話しかけてこないで!不義の子と話したなんて、お母さんにバレたら怒られるのは私なんだから!」
「…ごめん」

千鶴さんは幸華と幸舞が話すのをよく思っていない。
同じ九頭龍家の人間でありながら幸華にとって彼女達は異母姉。それは幸華の母親が父親と不倫に近い状態で幸華を身籠り、その後は病弱なのがたたって亡くなった。故に幸華を不義の子と彼女達が虐げる理由だ。

「アンタと鉢合わせたせいで計画が台無しじゃない。お兄様もお兄様よ!異妹とはいえ、愛人の産んだアンタなんか構って。史文様もぜんぜん会いには来て下さらない!」
「……」
「そうだ!ねえ幸華、それ何を貰ったのか見せてよ!」
「あ、うん」

幸舞は不意に手に持っていたギフトバックを指さす。
さっき史文に貰った誕生日プレゼント。
中を覗けば入っていたのは最近流行のバッグだった。

「バッグだ…」
「わあ!いいな~それってあの有名店の新作じゃん!予約しなきゃ手に入らない限定品だってクラスでも大騒ぎしてた奴よ!」
「そうなんだ、、」

なんでそんな高級な物を自分に?
いくら誕生日とはいえ、幸華はそこまで史文にして貰う義理はなかったので困ってしまった。

「ねえ幸華、それ自分には似合わないと思ってるでしょ?」
「…まあ」
「なら私に頂戴」
「……え、」

幸華がビックリしていれば幸舞はニコッと笑いかける。

「あら、だって当然でしょ?一般家庭のウチがここまで大きくなれたのは私のお陰。稀血の花嫁として青龍家の援助が貰えてるのよ?いずれは嫁入りする高貴な私には高貴な物しか似合わない」
「それは…」
「何をためらってんのよ。もしかして…嫌とか言うんじゃないでしょうね?」

ギフトバックを握る手に力がこもる。
このバックが似合うとか以前に『史文様が私の誕生日にくれた」。その事実が何より嬉しかったし、ここですんなりこれを渡したくはなかった。

「ごめんお姉ちゃん。それはできない」
「は?」
「だってこれは史文様が私の誕生日にってくれた物だから」

他人に渡しでもしたらバチがあたる。
四神家が保有する神力はそれだけ援助される家にとって影響を受けやすい。

「何言ってんの?私は稀血の花嫁なのよ?それが何を意味してるか分かってるわよね?」
「それは分かってるけど…」

稀血の花嫁。
それが幸舞姉さんの持つ才能だった。
血統主義の妖・神達が唯一人間の中から娶る花嫁。
稀血とはそれだけ己の力に忠実に作用する重要な存在。
単なる一般家庭に過ぎなかったウチが稀血体質の子供を産んだ。のちに九頭龍家が『龍』の文字を青龍家から与えられた要因でもある。

「私は選ばれた花嫁。妖も神も私を手に入れたがっている。史文様だって青龍家の跡継ぎ。私は特別であって誰からも愛されて当然なの。それを不義のアンタ如きが逆らおうだなんていい度胸じゃん!」
「別にそんなつもりは、」
「ならさっさと寄越しなさいよ!!」

半ばひったくる形でバッグを奪われれば、「あっ」と幸華が何か言う前に既にバッグは幸舞の手の中だった。逆らえる立場ではないので何も言えない。

「そうそう、そうやって素直に言うこと聞いてればいいの」
「……」
「あ、この事を史文様に告げ口しようもんなら。分かってるわよね?」
「…分かってる」
「そ?ならいいの♡」

満足そうにバッグを持って行ってしまう彼女を静かに眺める。
史文様にどう言い訳しようか考える羽目になった。