幸舞は自分が特別であると信じてきた。
自覚したのは幸華と呼ばれ初めて行った青龍家の屋敷。
初めて会った史文はそれはそれは美しく、人間離れしたその美しさには幸舞も目を奪われた。

「貴方が欲しい」

一目惚れだった。

「いい?あの子は死んだ母から生まれた不義の子なの。幸舞が対等に口を聞く必要なんてないのよ」
「妹なのに?」
「それはお父様が勝手にそう呼んでるだけ。幸舞は可愛くて愛される為に生まれてきた特別な子なの。それを忘れてはダメ。誰よりも愛され上に立ちなさい。愛されて当然なんだから」

母に聞かされ、幸舞の世界は自分中心で回っていった。
それと同時に幸華が大嫌いになった。
史文様に気に入られる幸華が邪魔だった。
望むものは絶対に手に入る。
自分は可愛くて愛されて当然なんだから。

それを決定づけたのは史文様が九頭龍家に遊びに来た時だった。

可愛い自分を褒めて貰いたい。
今まで以上にお洒落して準備をする宛ら側で一生懸命に掃除をしている幸華の存在が鼻についた。まだ御用人もいなく、仕事に付きっきりだった父親や兄の目を盗み、幸華を懲らしめるのが楽しみだった。

「お姉ちゃん、頂き物の風鈴が割れてるけど」

自室の掃除が面倒でいつも通り幸華を呼び出せば頂き物の風鈴が壊れてしまった。片付けるよう指示すれば史文様の到着を知らせる声が聞こえた。だが史文様と二人きりで会う筈が妹が邪魔すぎた。

「どいて、どっか行って邪魔!!」

邪魔されたくない。
私だけが愛されたくてたまらない!
あの人は私の物だから!
そんな嫉妬心から幸華を突き飛ばせば二人して倒れ込んでしまった。

「何の騒ぎですか⁈」

騒ぎを聞きつけた母と後ろからは史文様達が駆けつけてくる。運良く幸華が下敷きになったせいか怪我はない。

「ああ~ん!お母さん、幸華が私を突き飛ばした!!」
「なんですって⁈」
「見てよコレ、血が出ちゃった!!」

擦り傷を見せれば風鈴の破片上からは遅れて幸華も起き上がる。

「史文様!助けて痛いよ~」
「ッ…!し、幸舞嬢、その匂いは一体」
「え?」

史文様は手についた血を見ればフラフラと倒れ込んでしまう。驚いて近づこうにも「来るな!」と制され動けなくなる。よく見れば顔は赤く一心に自分を見つめ恋焦がれているようにも見えた。

「史文様…もしかして私が//」
「幸舞、コッチに来なさい!貴方はあの子を旧館に運んで!!」

母が何か言ってるけど聞こえない。
風鈴の残骸から抱き上げられた腕中血を流した幸華。
自分を見つめる史文様。

「幸舞!貴方が稀血の花嫁に選ばれたのよ!!」

それから直ぐ母に聞かされたのは自分が稀血体質だということだった。
妖や神からも愛される。
上位一族が唯一、人間の中から認めた花嫁。
幸せを約束された花嫁。

「貴方の血に史文様が強く反応したの!これは名誉ある証拠よ。四神に娶られし才能が貴方にはある。幸舞は選ばれたのよ!」
「私が稀血の花嫁?」
「そう、青龍家は貴方を花嫁に選んだのよ!」

史文様が私を?
私は稀血の花嫁で史文様に見初められたってこと?

「愛されて当然なの!」

その意味が今ハッキリと分かった。
絶対に誰からも愛されなくてはならない。
愛されたくてたまらない。
その疼きを満たせるのは大好きな史文様だけだって。
好き好き大好き♡

「私も好きです、史文様♡だから私を幸せにして下さい!」