「母上はこの学校の理事長の姉君にあたる人。稀血の花嫁である幸舞を何としても青龍家の元に嫁がせようと必死だ」
「でもなんで青龍家なの?四神には他三家、更に上に麒麟家が控えてるのに」

四神家は北を玄武家に青龍家、朱雀家、白虎家と序列化されている。この時、中央の麒麟家は四神の更に高位に位置する国のトップで公の場にも滅多に現れない。

「序列でいけば稀血を貰い受けるのは玄武家。麒麟家は更に上だが元は神のエネルギーが具現化した一族だ。金色の瞳に金色の髪。四神の総代とも呼べる彼らは高位であるが故に低位の存在に耳を傾けない。それが例え稀血の人間であってもだ。それを除いて母上が渋ってるのさ、」

倫太郎は理事長の傍らに控える千鶴を見つめる。
毅然とした態度で傲慢に振る舞う彼女は理事長よりも目立つ。

「青龍家は史文様の父上が当主の座に今も鎮座してる。だから歳若い史文様が当主に就くのはまだ先の話だし、神も若いと神力が安定しないからね。稀血を不安定な妖・神に嫁がせるのは危険行為なんだよ」
「だから婚約者なの?」
「婚約者と言っても正式な公表はまだだ。だからこそ玄武家が痺れを切らして青龍家が裏で対応してんだよね~」

左近である倫太郎は青龍家の現状に詳しい。
史文様は賢く聡明、それでも神として未熟であり、稀血を浴びれば神力を暴走させる危険がある。

「母上ときたら、一体何をお考えなのか…」
「……」

その後、幸華は倫太郎と別れると茶納と合流する。

「やっほ~幸華!着物姿が絵になるね!」
「ありがとう。同伴の件はどうなった?」
「あ、それ?コイツに頼んだ!」
「??」

茶納の後ろから眠そうに歩いてきたのは幸華もよく知る相手。

「ちょっと鬼楽(きらく)、シャキッとしてよ」

くせ毛の黒い短髪に赤い瞳。
頭から二本の角を生やす彼は鬼楽幹治(きらくかんじ)。鬼の妖であり、同じクラスメイト。鬼のくせに気の抜けた態度でいつも何をするにも消極的で有名だった。

「鬼のくせに威勢の一つもないわけ?鬼ってもっとこう…見てて強さを感じるもんじゃないの?」
「鬼の期待値高すぎだろ(笑)。俺は省エネモードでいきたいタチなんだ」
「はぁ、これで妖界のトップとか」

麒麟家が神のトップなら、鬼は妖のトップ。
赤い瞳に黒い髪。
百鬼と呼ばれる、百ある鬼の中でも黒鬼・鬼楽家は妖全てを取り纏める最高ランクに位置する。

「妖の今後が心配でしかない。黒鬼のご子息がサボり、遅刻、居眠りの常習犯なんだから」
「ひっで(笑)。俺だってやる時はやる。基本楽観主義なだけだ」
「楽観と無気力をはき違えるな!」

二人はとても仲がいい。
他の生徒は鬼であり高位な立場の幹治を避けるところ、コミュ力お化けの茶納は無問題で打ち解けていた。そんな茶納の影響を受け幸華もよくつるんでいる。

「お、着物姿なんだな。似合ってんじゃん」
「ありがとう鬼楽君。そっちも和装似合ってる!」
「にしてもこうしてアイツと並べば紅白だな。白い百合と赤いバラって感じ」

幸華の着ている着物は百合がモチーフだ。
黒い髪に白が映えると、倫太郎が選んでくれたもの。

「倫太郎さんもセンスあんのな。実際にお前は清純だし。ギャアギャアわめくどっかの誰かとは大違いだわ」
「ちょっと!そんなこと言って幸舞さんにバレたら首飛ぶわよ?」
「俺は幸舞だなんて一言も言ってないけど?もしかしてお前の事かもよ⁇てかやっぱお前もアイツ嫌いなんじゃん(笑)」
「こ、こいつ!!」

鬼楽に揶揄われ怒る茶納。
こんな茶番劇を面白いと感じてしまう幸華は良い友達に恵まれたと心から思った。そんな幸華を史文が愛おしそうに見つめ、隣では幸舞が悔しそうに唇を噛みしめ睨んでいた。