不義の子。
そう呼ばれる自分には無縁だと思った。

「ねえ聞いて!ずっと好きだった人に告白されたの!!」

放課後の教室に鳴り響くクラスメイトの声。
声の主である彼女は興奮した顔で自身のグループへ入っていけば、次の瞬間女子達の間には高い歓声が上がった。聞けば兼ねてより片思いしていた意中の男の子から告白されたらしい。廊下には告白した相手だろう、例の男の子が待っているのが見えた。だがその子を見た時、幸華は「あ、」っと声が出た。

「…幸華(こうか)、大丈夫?」

ボーっとしてれば友人が心配そうに声をかけてくる。
大丈夫だよと言うも声は力なく、幸華は幸せそうな笑みを浮かべて彼・瀧石(たきいし)君の元へと飛びつくクラスメイトを目で追った。

「絶対に大丈夫じゃないやつじゃん(笑)。まあそっか、今の幸華からしたらそうなるか」
「…茶納(さな)、サラッと傷口抉らないで」

所詮は失恋である。
彼・瀧石君とは親同士の事業がきっかけで仲良くなった。
見た目に反して根は真面目で優しい。
誰にでも話しかける彼の笑顔が好きで高校が一緒だと知った時、幸華は長年の片思いを晴らそうと思い切って告白したのだ。

ーーごめんな。俺、好きな人がいるんだ。

申し訳なさそうに断るその顔が印象的だった。
ああ、やっぱりそうか。
そんな気はしていた。
だって彼女を見る彼の目は愛おし気に微笑んでいたから。
それでももしかしたら!なんて…僅かな期待にかけて告白した自分の存在が、今となっては恥ずかしいとさえ思ってしまう。

「瀧石君って幸華の家と仲良かったよね?」
「うん…同じく和菓子屋を経営する親同士の付き合いでね」

ふと窓越しに彼と目が合う。
向こうは気まずそうに直ぐに目を逸らせば彼女を連れて去ってしまった。これで失恋確定だ。

「ずっと仲良かったから。でも向こうは私を友達としか見てないって。それも仕方がないことだけど」
「後悔してる?」
「ううん。自分の中で区切りがついたから」

好きだった人が他の人を選ぶのはショックだったけど、それでも彼らの幸せを心から願った。でも正直に言えば彼に愛されるクラスメイトが羨ましかった。

「よしきた!じゃあ今日は幸華の失恋慰め会だね!この後どっかでご飯でも食べてさ、それでカラオケ行こうよ!」

茶納は元気付けのつもりなのか、そう提案してくれるので無言で頷く。今は色々と気持ちに整理をつけときたかったから、彼女のこういう些細なフォローが有り難かった。