ある日のHR。先生が教壇の上で声を張り上げる。


「みんな!これから委員会を決めてもらう!絶対全員で入ってもらうから、一緒にやっていけそうな人とかやりたいこととか、そういうのを考えて決めていってくれ!」


青木先生は声が大きい。そんなに声を張り上げなくてもみんな聞こえてるって。
先生の話が一通り終わると、みんなが話しだした。
俺は何にしようかな。できれば、仕事少ないのがいいな。
そう考えていると、周りの女子が騒がしくなった。


「高峰たちってどの委員会入るんだろう」
「神様、一生のお願い。矢沢と一緒にしてください!」
「わたし早川とがいいーー」


一生のお願いこんなところで使っていいのか?
と、騒がしい女子を尻目に高峰が声をかけてくる。


「柴野、どの委員会入る?」
「まだ決まってない」
「部活の先輩が言ってたんだけどさ、美化委員いいらしい」
「美化委員?」
「あんまり人気ないけど、月一でどこか掃除するだけなんだって」


それはさすがに優良物件すぎる。できるだけサボりたい俺にとって、かなり魅力的だ。


「俺、美化委員にする」
「んじゃ俺も」


平然と高峰がつぶやく。いや、いいのか?俺と一緒で。お前と仕事一緒にやりたい女子いっぱいいるぞ?


「俺とでいいの?」
「え、ダメ?」
「別にダメじゃないけど……」
「じゃあ決まり」


困惑している俺とは対照的に、高峰はさっさと前に行って先生に伝えた。


「こういうのは早いもん勝ちだから。柴野の分も言ってきたけどいい?」
「あぁ、うん。ありがとう」


委員会は1つにつき2人までなので、美化委員は俺と高峰で決まったようなものだ。
トントン拍子で決まっていったので、まだ状況が掴めていない。そんな調子の俺に早川と矢沢が話しかけてきた。


「柴野は決まった?」
「うん。高峰と2人で美化委員」
「いーじゃん。俺たち2人は給食委員」
「えっ、給食委員って……ここ高校だから給食ないよね?」
「うん。なんでそんな委員会があるのかわかんない」


2人も確実に仕事がない委員会に入ったようだった。
みんなサボりたいのは一緒なんだな。

その話を聞いていた周りの女子たちはわかりやすく落胆していた。


「生きる希望を失った……」
「いや、給食委員ってなに……」


3人の委員会を決めるだけで生きる希望を失う人が現れるとは「ビジュ強三銃士」恐るべし……
早川によると、仕事が少ないのは美化委員と給食委員ぐらいだった。高峰が教えてくれて助かった。


「ねぇねぇ、柴野くん」


1人の女子が話しかけてきた。前に一度高峰に話しかけていた一軍女子だ。目つきが怖くて、俺は少し怖気付く。


「な、なに?」
「もしよかったらなんだけど、委員会変わってくれない?」
「あ、えっと、別にい……」
「ダメ」


圧に押されて別にいいよ、と言おうとした瞬間、高峰が俺をばっと引き寄せた。


「た、高峰?」
「柴野は俺と一緒にするから」
「え?なんで?柴野とたまたま一緒になったんじゃないの?」


女子が困惑している。多分みんな、俺と高峰が友達、ってこと知らないんだろうな。たまたま一緒の委員会選んだ、っていう風にみえていたようだ。


「俺が柴野とがいいから。もし柴野が委員会変わる、って言うなら俺も変わる」
「そんなやつのどこがいいの?」


女子の口調が強くなる。たしかに、俺のどこがいいんだろう。俺を気になって耳を傾ける。


「全部だよ、全部。全部好き」
「は……」


俺は一瞬その言葉が理解できなかった。じわじわと意味を理解していくと同時に顔が熱くなっていく。


「た、高峰、何言ってんの?」


俺は冷静を装って高峰に聞く。前みたいに変な顔してないかな。


「……柴野、あんまりその顔人に見せないほうがいいよ」


高峰はそう言って、俺の顔を自分の胸に埋めた。
え?俺そんな変な顔してたの?


「そういうことだから。美化委員は諦めて」


高峰の言葉に、女子は諦めて席へ戻っていった。
それを確認すると、俺は高峰の腕から解放された。

一呼吸つくと、おれは高峰に言う。まだ顔は熱いままだ。


「高峰、あんまりあんなこと俺以外に言わないほうがいいよ」
「あんなことって?」
「そ、その好き、とか。勘違いするから」


俺がそう言うと、はぁー、というため息が聞こえてきた。早川と矢沢だ。後ろで話を聞いていたみたいだ。


「俺は柴野のそういうとこ好きだよ」
「ここまで鈍感となると逆にあやしい」
「え、どういうこと?」
「高峰頑張れ、ってこと」


ここでどう高峰とつながるのか俺には見当もつかなかった。