(早川視点)
体育祭が終わってから、矢沢を呼び出す女子が増えた。
まあ、あれだけ目立っていたら告白されるのも当然だと言えるだろう。
少しモヤついているのを振り払っている俺に、高峰が話しかけた。


「また矢沢呼び出されてんなー。いいのかよ早川」
「別に矢沢が誰と付き合うかなんて、矢沢の勝手だし」
「そんなこと言って、前矢沢が付き合った時だいぶショック受けてたじゃん」
「うるさい高峰」


俺は高峰を小突く。「ごめんって」と笑いながらあしらわれた。
その話を聞いていた柴野が口を開く。


「矢沢って一年の秋ぐらいまで彼女いたんだよね?」
「うん」
「いつぐらいから付き合ってたの?」
「夏休み入る少し前ぐらいかな。でも体育祭終わった頃には別れてたよ。2ヶ月も経ってなかったんじゃないかな」


答えながら、その時のことを思い出す。放課後、矢沢と一緒に帰ろうとしたら、隣のクラスの女子が「矢沢くん、一緒にかえろー!」と矢沢の元に走ってきた。「早川、ごめん。彼女と帰るから、先帰ってて」と言われ、頭が真っ白になったことを覚えている。


「その時の早川だいぶ荒れてたんだよなぁ。矢沢にはその素振り一切見せなかったけど」


高峰が遠い目をして言う。正直、高峰には迷惑をかけたと思っている。
柴野は俺の目を見ておそるおそる口を開いた。


「告白する、っていう選択肢はないの?」
「……気持ち伝えて気まずくなるくらいなら、このまま幼馴染として一緒にいられる方がいいんだよ」
「それ、前に言ってたな。ちょうど矢沢が付き合った日の前の日」



ーーーー



矢沢が付き合った日の前日。
放課後の教室、俺は高峰と、矢沢の部活が終わるのを待っていた。


「お前も飽きないよなー、矢沢のこと」
「飽きるとか、そんな話じゃない」
「だよなぁ」


高峰は笑みを浮かべて俺を見る。生温かい目で見られて思わず顔を背けた。


「しないの、告白」
「…………しない」


高峰の言葉に首を横に振った。
グッと唇を噛み締める。


「付き合いたくないの?」
「そりゃ、付き合えたら嬉しいよ。でも、」
「告白して、振られて、気まずくなるくらいなら」


「矢沢とは幼馴染のままでいい」


今まで築いてきた幼馴染という関係が崩れるくらいなら。
幼馴染として一緒にいられたら、それでいいんだ。

グッと俯いたその時、ドアがガラガラと開いた。


「…………」


ドアのところに矢沢が立っていた。
矢沢は何か気難しい顔をして黙っている。


「矢沢?どした?」
「…………なんでもない、帰ろーぜー」


矢沢はパッと笑顔を浮かべてくるりと背を向けた。

その笑顔に、少しの違和感を抱えながらも俺はそれについていった。