高峰と話すことなく文化祭が終わってしまった。
俺はというと、早川と矢沢と一緒に高峰の家の前に立っていた。
矢沢考案の「文化祭の打ち上げ」を俺、高峰、早川、矢沢で高峰の家でやることになったのだ。
というのは建前で、本当の目的は俺と高峰が仲直りすることである。
俺は矢沢の腕を引いて言う。


「待って矢沢、やっぱ無理……」
「ちゃんと話さないと高峰といつまでもこのままだよ。いいの?」


矢沢にそう言われて言葉に詰まる。
早川が俺の肩をポンと叩いた。


「大丈夫だよ、柴野。俺たちもいるしさ」


涙目になりながらも頷いた。ここまで協力してもらってるんだ、ここで引くわけにはいかない。
そう自分に喝を入れて、高峰の家に入った。

階段を上り、高峰の部屋のドアの前に立つ。


「柴野が開けて」
「え!?いや、でも……」
「ほら、早く」


早川と矢沢に急かされ、ドアを開く。
高峰こちらを向いて目を見開く。
久しぶりに目を合わせたような気がして、どうすればいいかわからない。
助けを求めようと早川と矢沢を見ると。

今にもドアを閉めようとしていた。


「ちょっと早川!」
「俺たちができるのはここまでだから。頑張って、柴野」
「柴ちゃんなら大丈夫だよ」


俺の制止も聞かず、2人はドアを閉めた。

こんな状況で2人きりにされても、なに話していいかわからない。
部屋に沈黙が流れる。
何か言ってよ、高峰。
耐えられなくなって、部屋を出ようとドアノブに手をかけたそのときだった。


「待って柴野!」


高峰に手を掴まれる。俺はその手を振り解こうと力を込めた。


「離してよ……高峰」


久しぶりに、高峰にふれた気がして嬉しいのに、口から出る言葉はそれに逆らうように冷たかった。


「ごめん。俺思い出したんだよ、夏祭りの日のこと」
「……えっ」


驚いて高峰の目を見る。その目はいつになく真剣だった。


「俺、柴野にキスした。ごめん、ほんと。あの時、頭が回ってなくて、理性が効かなかった」


その言葉に固まる。自分なりにその言葉を咀嚼する。


「理性が効かなかった、って事は、いつも俺にキスしたいって思ってたってこと……?」


俺がそう聞くと、高峰は顔を真っ赤にして頷いた。


「ほんとはもっとちゃんと言いたかったんだけど、俺……」


「柴野のこと、好きなんだ」


赤い顔が、
真剣で潤んだ瞳が、
丁寧に紡がれたその言葉が、

俺に向けられたものとは思えなくて。

呆然として高峰を見つめた。


「ごめん、こんなこと言って。混乱するし、キモいと思う。柴野の気持ち考えずにキスなんかして。でも、我慢するから。もう二度と、あんなことしないって約束するから。だからっ……」


「友達として、俺と一緒にいてほしい……」


泣きそうな顔で、縋っているような声で、俺に言う。
グッと拳を握りしめる。


「なんでいつも俺の気持ち無視するんだよ……」


混乱してる頭で、かろうじて言葉を紡ぐ。


「俺はっ……高峰にキスされて、嬉しかった」


高峰が目を見開いた。


「なのに、高峰覚えてないし……」

「思い出したと思ったら、『ごめん、もうしない』って……ふざけんなっ!」


頭の中がキャパオーバーして、涙がこぼれ出す。


「高峰、好きな人いるくせに、いつも俺と一緒にいるし、甘やかしてくれるし、助けてくれるし……俺っ、高峰がいないとダメになりそうで」

「高峰が笑ったら、胸がキュってなって、どうしたらいいのかわかんなくなるし、高峰がだれかと話してるのとか見ると苦しくなる。もっと俺を見てほしいって思う」


「もっと俺に触ってほしいって思う」


今まで胸の奥につっかえていた言葉が驚くほどすらすら出てきた。


結局、自分がなにが言いたいのかは明白だった。



「俺も、高峰のこと、好きだよ」



「『友達として』なんて言わないで」と言う間もなく、唇を塞がれた。

高峰の手が頬に添えられて、俺の涙をソッと拭う。

高峰は泣きそうな顔で微笑んだ。

近づいてくる高峰の顔を目を閉じて受け入れる。

角度を変えて、何度も合わせられる唇に溺れそうになる。
柔らかい感触にとろけそうになる。


「柴野、泣かせてごめん」


高峰が腫れた俺の目の下を優しく撫でた。

高峰の言葉に頷こうとして、やめた。


「許さないから」


いたずらにそう言うと、高峰は驚いた顔をした後、フッと笑った。


「お詫びになにすれば良い?」
「……わかってるくせに」


2人で笑い合い、もう一度、唇を重ね合わせた。



おわり