夏祭りの日から2日経った。明日から新学期が始まるというのに、俺の頭の中は、高峰とのキスのことでいっぱいだった。

なんで高峰は俺にキスをしたのか。
なんで俺はそれを受け入れたのか。
この胸の鼓動はなんなのか。
高峰の好きな人は誰なのか。

わからないことがありすぎる。
おかげで昨日はまともに寝れなかった。

頭を抱えていると、ピロンと携帯がなった。
早川からのメッセージだ。

『今から矢沢と高峰のお見舞い行くんだけど、柴野も来る?』

それを見て、「行く」と即答した。
なにかわかるかもしれない。



ーーーー



高峰たちの最寄りの駅に着くと、早川と矢沢が待っていてくれた。


「ごめん、遅くなって」
「大丈夫だよ」
「おっすー柴ちゃん」


合流すると、高峰の家に向かって歩き出す。
高峰、早川、矢沢は幼稚園からの幼馴染ということで、家も近いらしい。

少し歩くと、二階建ての一軒家に着いた。
洋風の綺麗な家だ。
早川と矢沢はインターホンを鳴らさずに入っていく。


「ま、待って。勝手に入って大丈夫なの?」
「うん。俺らよくお互いの家行き合ってるから。高峰の家は俺らの家だよ」


矢沢が笑いながら答える。幼馴染パワー、恐るべしだな。

「おじゃまします」と言って入り、早川たちに着いていく。
整頓された綺麗な家だ。


「今日は高峰以外いないみたいだね」


早川がつぶやく。シンとした家の中には俺たちの声だけが響いた。

2階に行き、早川がドアを開けた。ここが高峰の部屋らしい。


「高峰ー、大丈夫かー!」


矢沢がズカズカと入っていく。「うるせえよ」という高峰の声が聞こえた。よかった、元気そうだ。
早川に続いて部屋に入る。俺は謎に緊張していた。


「柴野!」


俺を見ると高峰はパッと笑う。やめてくれ、心臓にくる。
俺は赤くなった顔を誤魔化すように高峰に袋をさしだす。


「なにこれ」
「ぜ、ゼリーとか、プリンとか。体調悪くても食べられるやつ買ってきた」 


俺はちゃんと話せているだろうか。今までどうやって話してたっけ。そんな俺の気も知らず、高峰は「ありがと」と俺の頭を撫でた。
そんな俺たちを見ていた早川が口を開いた。


「じゃあ、俺たちは帰るね。行こう矢沢」
「おっけー。じゃあね高峰、柴ちゃん」


制止する間もなく、早川たちはそそくさと帰っていった。
高峰と2人で部屋に残される。なにを話そう、と考えていると高峰が俺に言った。


「柴野、夏祭りの日、迷惑かけてごめん」
「ぜ、全然。いつも俺の方が迷惑かけてるから」
「よかった。俺、熱のせいかあの時の記憶曖昧で」


高峰のその言葉に固まる。
もしかして、キスのこと覚えてない……?
冷水をかけられたような気分になる。


「俺、柴野に変なことしてない?」


高峰が俺をのぞく。

そっか、高峰は覚えてないんだ。
なぜかそれがとても悲しかった。
と、同時に自分ばっかり悩んでいるのが馬鹿らしくなった。
弄ばれているような気がして、高峰に怒りすら湧いてきた。

的外れなことだと、わかっているのに。
悲しみと、馬鹿らしさと怒りがごちゃごちゃに混ざって、

思いのままに高峰に言ってしまった。


「高峰のバカ!もう俺に近づくな!」


ああ、言っちゃった。
高峰の顔を見るのが怖くて、うつむいて部屋を出た。
階段を駆け降りて、高峰の家を出た。
グッと唇を噛み締めて走り出す。

あんなこと、思ってもないのに。
高峰を傷つけて、俺、ほんとなにがしたいんだ。

自己嫌悪に陥るまでは、それほど時間がかからなかった。

涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら走る俺の姿は、醜いだろう。でも、人の目すらも気にならないほどに俺の頭は高峰のことでいっぱいだった。

明日からどんな顔して高峰に会えばいいんだろう。