隣の席のイケメンに懐かれた

高峰の部活の試合を観に行った次の日、俺は高峰たちと夏祭りに行くことになった。

祭りなんて何年ぶりだろうか。今まで一緒に来る人もいなかったので、ただ家の中で花火が上がる音だけを聞いて過ごしていた。

集合場所に着くと、案の定3人は女子に囲まれていた。
1人の女子が高峰と腕を組む。

モヤッ

一瞬感じたモヤつきを振り払うように口を開く。


「高峰!」


俺がそう呼ぶと、パッとこちらを向いて走ってくる。


「柴野、待ってたよ」


高峰はそう言って俺を抱きしめた。
気のせいか、いつもより高峰の匂いが強く感じて、胸がドキンと高鳴った。


「なに食べる?」


高峰が笑顔で話しかけてくる。俺は屋台を見るふりをして顔を逸らした。昨日、高峰が試合が終わった後に俺に向けた笑顔をみてから、心臓が変だ。病気なのかもしれない。


「かき氷、とか?」
「ん、おっけー。じゃあ買いに行こ。矢沢、早川、俺たちちょっとかき氷買ってくる」
「わかったー。柴ちゃん、高峰とはぐれちゃダメだよ」
「大丈夫だよ」


矢沢は俺のこと幼稚園児かなにかと勘違いしてないか?
矢沢の言葉に呆れつつも、高峰と一緒にかき氷を買いに行く。


「かき氷、高峰も買う?」
「いや、俺はいいよ。あんまり腹減ってないんだよな」
「そっか」


俺の分だけ買い、近くにあったベンチに腰掛けた。
かき氷を口に入れると、舌の上でスッと溶け、甘ったるいシロップの味だけが口の中に残った。

「美味い?」
「うん。ひと口いる?」
「大丈夫。柴野が食べな」


高峰はかき氷を食べる俺を見つめるだけだ。そんなに見られたら食べ辛いんだが。
恥ずかしくなった俺は口を開いた。


「早川たちに合流したほうがいいよね」
「いや、あいつらは2人で居させてあげよ」


ああ、確かにそうだ。早川の恋を優先するなら2人きりにした方がいいだろう。


「てことで、柴野がそれ食べ終わったら一緒に来て欲しいところあるんだよ」
「わかった。早く食べる」
「そんな慌てなくていいから。ゆっくり食べな」


かき氷を口にかきこむ俺を見て高峰が笑った。心臓がドキンと高鳴る。それを誤魔化すように、もっと口の中に入れた。頭がキーンとなるのも気にならなかった。



ーーーー



かき氷を食べ終わると、高峰が行っていた場所に歩き出す。
人通りの少ない茂みに入っていくと、ポツンと一つだけベンチが置いてあった。


「ここ、穴場なんだよ。よく花火見えるのに人来ない」
「そうなんだ」


周りに木が生い茂っているが、ちょうど花火が見える位置には葉っぱ一つない。まるで、花火が見えるように気を遣っているようだ。

俺たちがベンチに座って少しすると、花火が上がり出した。
夜空に一本の線が立ち、一瞬消えたかと思うと、パッと大量の線を散らした。


「きれい……」


俺がそう呟くと、高峰が「よかった」と笑った。
花火に照らされたその笑顔に、目が釘付けになる。


「どした?」


惚けていた俺の顔を高峰が不思議そうに見つめる。
慌てて顔を逸らす。


「俺、友達とかとこういうの来たことなかったから。今年は高峰たちとこれて嬉しいなって」


なんとか言いたいことを捻り出した。何か言わないと、胸のドキドキが聞こえてしまいそうで。


「俺も、柴野と来れて嬉しいよ」


恥ずかしげもなくそういって笑う高峰の顔に、目が離せない。
高峰の黒い瞳に吸い込まれそうになる。
高峰の目には俺しか映っていなかった。

スッと高峰の手が伸びてきて、俺の頬に触れる。

俺はそれをなにも考えず受け入れた。いや、考えなかったんじゃない。考えられなかった。

それほどまでに、高峰に目を奪われていた。


「柴野」


高峰はそういって、俺に顔を近づける。
なにかを考える暇も、なにかを言う暇も、目を閉じる暇すらもなく。


高峰と俺は唇を重ねていた。