わたしは高校の昇降口に着いて、すぐにクラス表を確認した。一年C組だったので、その教室へと向かう。
そして胸のドキドキを落ち着かせながら教室へ足を踏み入れた。
「え、お前同じクラスなの!? 腐れ縁すぎるだろ」
「えー! 優子ちゃんも同じ学校だったの!? また一緒で嬉しい!」
教室では、男子も女子もクラス替えのことで盛り上がっていた。
小学校や中学校からの友達が同じクラスにいるなんて羨ましい。友達ができるかな、なんて不安な気持ちにならないだろうから。
一方でわたしは隣の県から引っ越してきたから、もちろん知り合いなんているはずがない。
……もしかして、わたしの高校生活、終わった?
そんなことを考えていたとき、前の席の子が、ぐるんと後ろを振り返った。
「ねね、どこの中学校から来たの?」
「……え?」
「わたしね、南中なの。南中って奏和田高校選ぶ人少ないでしょ? だからこのクラスに知り合いいないんだよね」
その子は、黒髪ロングで、顔が整っている綺麗な子だった。
誰が見ても美人、と答えるような感じの子。
その子に見惚れていると、「どうしたの?」とわたしの顔色を伺ってきた。わたしは慌てて答える。
「えっと、わたしは引っ越してきたんだ。だからわたしも知り合いとか誰もいなくて、不安で」
「え、そうなの? じゃあ仲良くしよう。わたし、穂村 絵莉」
「ま、真中 こころです」
「こころちゃんね。わたしのことは絵莉でいいよ、よろしくね」
「……よろしくね、絵莉ちゃん」
新学期早々、友達が出来た。……良かった、ひとりにならなくて。
そう安心したと同時に、自分の病気のことを思い出してしまった。
思い出すたびに、パニックを起こしそうになる。なるべく学校にいる間だけでも忘れないと、と思った。
予鈴が鳴り、新学期お得意の自己紹介が始まった。
「えー、担任の若松です。一年間どうぞよろしくお願いします。じゃあ自己紹介は出席番号が早い生徒からやってもらうことにします」
担任の若松先生は、若い男性の先生だった。
「結構イケメンじゃない?」「それな。後で話しかけてみよ!」という女子生徒の声があちこちから聞こえてきた。
「じゃあトップナンバーは、青葉透さん」
「はい」
その瞬間、ドクン、と心臓が跳ねた気がした。
……いま、なんて。
いや、わたしの勘違いだ。同姓同名とか。うん、きっとそうーー。
だけどわたしは、その人の顔を見た瞬間、ハッキリと脳裏に焼き付けられた。
「青葉透です。家庭の事情で引っ越してきて、まだこっちの生活に慣れてないのでいろいろ教えてください。よろしくお願いします」
よく覚えてる。この人の顔も、声も。
青葉くん。わたしの、初恋の相手。
その瞬間、視界がグラッと傾いた。
目の前が真っ白になる。……どうしよう。これ、倒れちゃうかも。
……あのときのように。
「こころちゃん!? 大丈夫!? 先生、こころちゃんが……!」
「すぐに保健の先生呼んでくるから。みんな騒がないように! 穂村さんは真中さんのそばについてあげていてください」
「は、はい」
遠のいていく意識のなか、絵莉ちゃんと若松先生の声がうっすらと聞こえた。
……せっかくできた友達なのに。わたしはいつもそう、誰かに迷惑をかけてしまうんだ。
「……真中さん」
その瞬間。
彼のーー青葉くんのわたしを呼ぶ声だけが、ハッキリと聞こえた。
そして胸のドキドキを落ち着かせながら教室へ足を踏み入れた。
「え、お前同じクラスなの!? 腐れ縁すぎるだろ」
「えー! 優子ちゃんも同じ学校だったの!? また一緒で嬉しい!」
教室では、男子も女子もクラス替えのことで盛り上がっていた。
小学校や中学校からの友達が同じクラスにいるなんて羨ましい。友達ができるかな、なんて不安な気持ちにならないだろうから。
一方でわたしは隣の県から引っ越してきたから、もちろん知り合いなんているはずがない。
……もしかして、わたしの高校生活、終わった?
そんなことを考えていたとき、前の席の子が、ぐるんと後ろを振り返った。
「ねね、どこの中学校から来たの?」
「……え?」
「わたしね、南中なの。南中って奏和田高校選ぶ人少ないでしょ? だからこのクラスに知り合いいないんだよね」
その子は、黒髪ロングで、顔が整っている綺麗な子だった。
誰が見ても美人、と答えるような感じの子。
その子に見惚れていると、「どうしたの?」とわたしの顔色を伺ってきた。わたしは慌てて答える。
「えっと、わたしは引っ越してきたんだ。だからわたしも知り合いとか誰もいなくて、不安で」
「え、そうなの? じゃあ仲良くしよう。わたし、穂村 絵莉」
「ま、真中 こころです」
「こころちゃんね。わたしのことは絵莉でいいよ、よろしくね」
「……よろしくね、絵莉ちゃん」
新学期早々、友達が出来た。……良かった、ひとりにならなくて。
そう安心したと同時に、自分の病気のことを思い出してしまった。
思い出すたびに、パニックを起こしそうになる。なるべく学校にいる間だけでも忘れないと、と思った。
予鈴が鳴り、新学期お得意の自己紹介が始まった。
「えー、担任の若松です。一年間どうぞよろしくお願いします。じゃあ自己紹介は出席番号が早い生徒からやってもらうことにします」
担任の若松先生は、若い男性の先生だった。
「結構イケメンじゃない?」「それな。後で話しかけてみよ!」という女子生徒の声があちこちから聞こえてきた。
「じゃあトップナンバーは、青葉透さん」
「はい」
その瞬間、ドクン、と心臓が跳ねた気がした。
……いま、なんて。
いや、わたしの勘違いだ。同姓同名とか。うん、きっとそうーー。
だけどわたしは、その人の顔を見た瞬間、ハッキリと脳裏に焼き付けられた。
「青葉透です。家庭の事情で引っ越してきて、まだこっちの生活に慣れてないのでいろいろ教えてください。よろしくお願いします」
よく覚えてる。この人の顔も、声も。
青葉くん。わたしの、初恋の相手。
その瞬間、視界がグラッと傾いた。
目の前が真っ白になる。……どうしよう。これ、倒れちゃうかも。
……あのときのように。
「こころちゃん!? 大丈夫!? 先生、こころちゃんが……!」
「すぐに保健の先生呼んでくるから。みんな騒がないように! 穂村さんは真中さんのそばについてあげていてください」
「は、はい」
遠のいていく意識のなか、絵莉ちゃんと若松先生の声がうっすらと聞こえた。
……せっかくできた友達なのに。わたしはいつもそう、誰かに迷惑をかけてしまうんだ。
「……真中さん」
その瞬間。
彼のーー青葉くんのわたしを呼ぶ声だけが、ハッキリと聞こえた。



