「明けましておめでとう」

 「あけおめー」

 「おめでとう」

 「おめでとー!」

 一月、新しい年がスタートした。
 わたしや絵莉ちゃん、柚乃ちゃん、瑠夏ちゃんの四人で近くの神社の初詣に来ていた。
 もうすぐ冬休みが終わり、三年生の卒業式が来てしまうと考えると、とても悲しくなる。それに十二月の冬休みはたくさん部活があったので、みんなヘトヘトだった。
 だから気分転換をするため、みんなでお参りすることになった。

 「わぁ、屋台いっぱいあるね。みんなで何食べたいか、一斉に言わない?」

 「いいね」

 「賛成ー!」

 おもしろそうだと思い、わたしは頷いた。
 柚乃ちゃんが「せーの」と言ったタイミングで口を開く。

 「りんご飴」

 「焼きそば!」

 「たこ焼き」

 「大判焼き」

 ……え、ひとりも被らなかったんだ。
 わたしたちは一斉に噴き出す。

 「そんなことある!? うちらおもろっ」

 「だね。びっくり」

 「ていうか、こころちゃん大判焼き? 珍しいね、わたし食べたことない」

 「そうなの? 美味しいよ」

 屋台があれば、わたしはいつも大判焼きを食べるのだけど。
 そんなに珍しいのか、美味しいのに。
 わたしたちはそれぞれ食べたいものを買うことにした。わたしは熱々の大判焼きを一口頬張ると、甘くて美味しかった。

 「じゃあさ、お参りの列並ぼー」

 「結構時間掛かりそうだよね」

 「仕方ないよ、初詣だし」

 「だね」

 たくさんの人がお参りをするため、長い列ができていた。
 先は長い。何分くらい掛かるかな……。
 そう思っていると、見覚えのある人たちが歩いているのが見えた。
 わたしは思わず「えっ」と声を上げてしまう。

 「愛良先輩っ!」

 「こころ! 偶然だね。明けましておめでとう」

 偶然、愛良先輩やあかり先輩、葵先輩に遭遇した。
 先輩たちは振袖を着ていて、とても良く似合っていた。
 わたしは先輩たちの振袖姿に見惚れてしまい、大事な言葉を言い忘れる。

 「あっ、明けましておめでとうございますっ」

 「みんなもおめでとう。四人でいるところ良く見かけるけど、本当に仲良いよね」

 「あ、わたしも思った!」

 わたしたちは先輩たちにそう言われて、少し照れてしまった。間違ってはいないのだけど。

 「おー、瑠夏の焼きそば美味そう。あたしも買ってこようかなー」

 「めっちゃおすすめです! めっちゃ美味いっす!」

 葵先輩は柚乃ちゃんや絵莉ちゃんと、愛良先輩は瑠夏ちゃんと話をしていると。
 あかり先輩がわたしが手に持っている大判焼きに視線を向けた。

 「こころちゃん、もしかして大判焼き好きなの?」

 「えっ、はい、好きです」

 「本当? わたしも小さいころから大好きなの。でも周りにはおばあちゃんじゃんとか散々言われてきて。初めて大判焼きの良さを分かち合える人に出会えて嬉しい」

 そう言って、あかり先輩は微笑んだ。

 「わたしも嬉しいです。ここの屋台の大判焼きとっても美味しいので、ぜひあかり先輩も食べてください!」

 「ありがとう、じゃあそこ行くね」

 「はいっ」

 同時に、愛良先輩が「そろそろ行くね」と言葉を発した。
 きっと焼きそばが食べたくてたまらないのだろう。

 「お疲れ様でした!」

 「お疲れ様、またね」

 もうすぐお参りができるところまで列は進んだ。
 すると柚乃ちゃんが嬉しそうに口を開く。

 「先輩たちの振袖姿、可愛かった! 葵先輩やばかったなー」

 「分かる! あかり先輩もふわふわしたわたあめみたいな感じでさ!」

 「愛良先輩はやっぱり美人だよね」

 「ラッキーだったね、先輩たちに遭遇できて」

 わたしは首を縦に振った。
 そのときわたしたちは列の最前になり、賽銭してからお参りした。

 わたしの願いは、ただひとつ。
 来年、支部大会に出場できますように。
 そう心から願った。

 「じゃあさ、最後におみくじ引いていかない?」

 「いいね!」

 わたしたちは揃っておみくじを引いた。
 恐る恐る紙を開くと、“大吉”と書かれていた。
 こういうのは信じるタイプなので、嬉しくてガッツポーズしてしまう。

 「え、こころちゃん、もしかして大吉?」

 「うん、引いちゃった」

 「すごいね!」

 絵莉ちゃんは吉、柚乃ちゃんは中吉、瑠夏ちゃんは末吉だったらしい。
 わたしはすぐおみくじに書かれている文に目を通した。
 『大勢の人と関わり目標を成し遂げ、新たなスタートを切れるだろう』
 嬉しさのあまり、みんなにすぐ伝えてしまった。

 「目標を成し遂げられるって書いてあった……!」

 「それって、支部大会出場ってこと!?」

 「当たるかは分からないけど、こころちゃんのおみくじを信じよう」

 「そうだね」

 わたしは強く頷いた。
 恋愛運だけはあまり良くなかったけれど、今は恋愛なんて興味がない。わたしは、ただ吹部で頑張りたいだけ。
 ……神様。どうか、今年は支部大会に出場できますように。
 きっと神様がこの場を見てくれていると信じて、そう願った。