練習を重ね、小学生との交流会の日がやってきた。
楽器運搬が大変だけれど、小学生と交流できるのはとても楽しみ。
初めての一年生と二年生でのイベントだから、絶対に成功させたいと思った。
「はい、みなさん集まってくださーい。ついに本番ですね。緊張すると思うけど、コンクールに比べたら全然マシだから。頑張ろ!」
「はい!」
愛良先輩が部長なのも、少し慣れてきていた。
里奈先輩はみんなを落ち着かせる優しい部長だったけれど、愛良先輩は気合いと勇気を入れてくれる熱心な部長という感じだ。
わたしは小学校に着いて打楽器や管楽器の運搬をしたあと、音出しをした。
「体育館ってすごく響きますね」
「そうなんだよね。トランペットはめっちゃ響くけど……」
そう言って愛良先輩は横目でチラッと視線を向けた。
その視線の先にいたのは、ホルンだった。
「全然響かなーい、ホルンいなくてもバレないんじゃない?」
「ですよね、わたしも思ってました。やっぱり反響板とかないと響かないんですかね、後ろ向きのベルって」
「本当だよね! ただでさえ音量出しにくいのに」
と、葵先輩と柚乃ちゃんは不満を持っているようだった。
確かに、反響板がないと音が響きにくいかもしれない。特にベルが後ろを向いているホルンは。
わたしと愛良先輩はその様子を見て苦笑いした。
「こころもついにセカンドかー。良かったね」
「はい。初めてです。中学のときは、サードしか吹いたことなかったので」
「あー、そっか。今回は辞めないでね。パニック障害だっけ。もう大丈夫なの?」
「それが、この前精神科に行ったんですけど、もうほとんど完治したみたいで。症状も出てないし。薬はまだ少し継続しますけど」
そう答えると、先輩は安心したように笑った。
「そうなんだ。良かったじゃん」
「はい! 吹部のおかげです」
「吹部の?」
「わたし、トランペットも吹部も大好きです。コンクールとか、やっぱり青春だなぁって思って。練習してるといつの間にか病気のことなんて忘れちゃうんです」
だからわたしのパニック障害が治ったのは、吹部のおかげだ。
もちろん、青葉くんともう一度ちゃんと話せたということもあると思うけれど。
楽しそうにクラを吹く青葉くんを見ると、友達として一緒に部活ができることが嬉しく思った。
そんなことを考えていると、突然クラやサックスパートの人たちの手が震えているのに気がついた。
「どうしよう……やっぱり怖い」
「先輩いないイベントなんて、初めてだもんね……」
「松嶋先輩にこの前気合い入れてもらったけど、やっぱり不安だよ」
絵莉ちゃんまで、不安なようだった。
どうにかして励ましてあげたいと思っていると、愛良先輩も気がついていたようで、「注目ー!」と言いながら手をパンパンと叩いた。
「みんな三年の先輩がいない初めてのイベントで、不安が大きいと思う。だけど練習もめっちゃしたし、絶対に大丈夫! だから今日は楽しくやろう!」
「先輩……!」
「はい!」
さすが愛良先輩。部長として、ちゃんと部員のことを見ているんだ。
そして、体育館に小学生が集まってきた。
六年生でも四つくらいしか年が違わないのに、とても若く見える。
「小学生のみなさんこんにちは、奏和田高校です! 部長の松嶋といいます、今日はよろしくお願いしまーす!」
「よろしくお願いします!」
叫び声のような、大きくてハキハキとした小学生の挨拶。
若さだけでなく明るさも持っていて、元気ですごいなと思う。
「ではまず各楽器の紹介をさせていただきたいと思います。木管楽器からです!」
「こんにちは、フルートとピッコロパートです」
フルートとピッコロ、クラリネット、サックスのパート紹介が終わり、金管楽器の出番が来てしまった。
一番最初はトランペットだ。
「こんにちは、トランペットパートです。トランペットは金管楽器のなかで一番、華やかなメロディーやソロを吹くパートです!」
わたしがそう言うと、愛良先輩が「ドレミファソラシド」と音階を吹いた。
先輩のトランペットの音にみんな魅了されているようだった。もちろんわたしも。
「トランペットはぜひ、目立ちたい方にぴったりの楽器です。ぜひ興味を持っていただけたら嬉しいです」
トランペットパートの紹介は終わった。
わたしはひとまず自分の出番が終わったことにホッとしている。
「続いてこんにちは、ホルンパートです! ホルンは優しい音も、芯のある強い音も出すことができます。ギネスで“世界で一番難しい金管楽器”とも登録されているんです!」
ホルンの柔らかい安心感のある音が響き、ホルンパートの紹介が終わった。
「こんにちは、トロンボーン、ユーフォニアム、チューバパートです。わたしたちは各楽器ひとりで活動しています」
「トロンボーンはハッキリした明るい音、ユーフォは丸く優しい音、チューバはみんなを支える低い音が出ます」
「では、そんな三つの楽器が重なった音を聞いてくださーい!」
三つの楽器のハーモニーが鳴り渡り、金管楽器のパート紹介は全て終わった。
打楽器パートも終わり、最後に数曲披露した。
「では小学生のみなさん、ありがとうございました! いつかぜひ奏和田高校に来て吹奏楽部に入部してください!」
「はーい!」
「吹奏楽部入りたーい!」
「吹奏楽部かっこよかったー!」
小学生からのそんな言葉に、わたしはもちろん、みんなも愛良先輩も嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「ありがとー、待ってまーす!」
小学生を見送るため、金管パートはステージから降りた。
わたしは小学生のそばに行こうとすると、女の子が「あの」と話しかけてきた。
「トランペット、やりたいです」
「え……本当に? ありがとう、嬉しい。何年生?」
「六年生」
わたしより全然背が低くて、とても小さく見えた。
小学六年生ってこんなに可愛かったっけ。そう思いながらもわたしは答えた。
「そうなんだ。わたし高校一年生だから、きっとこの部活に入る頃はいないと思うんだけど……でも、ぜひ来てね」
「うん、分かった。さようなら!」
「バイバイ」
来年、あの子が中学生になったとき、吹部でトランペット吹いてたらいいな。
わたしはその女の子に手を振りながら、そう思った。
楽器運搬が大変だけれど、小学生と交流できるのはとても楽しみ。
初めての一年生と二年生でのイベントだから、絶対に成功させたいと思った。
「はい、みなさん集まってくださーい。ついに本番ですね。緊張すると思うけど、コンクールに比べたら全然マシだから。頑張ろ!」
「はい!」
愛良先輩が部長なのも、少し慣れてきていた。
里奈先輩はみんなを落ち着かせる優しい部長だったけれど、愛良先輩は気合いと勇気を入れてくれる熱心な部長という感じだ。
わたしは小学校に着いて打楽器や管楽器の運搬をしたあと、音出しをした。
「体育館ってすごく響きますね」
「そうなんだよね。トランペットはめっちゃ響くけど……」
そう言って愛良先輩は横目でチラッと視線を向けた。
その視線の先にいたのは、ホルンだった。
「全然響かなーい、ホルンいなくてもバレないんじゃない?」
「ですよね、わたしも思ってました。やっぱり反響板とかないと響かないんですかね、後ろ向きのベルって」
「本当だよね! ただでさえ音量出しにくいのに」
と、葵先輩と柚乃ちゃんは不満を持っているようだった。
確かに、反響板がないと音が響きにくいかもしれない。特にベルが後ろを向いているホルンは。
わたしと愛良先輩はその様子を見て苦笑いした。
「こころもついにセカンドかー。良かったね」
「はい。初めてです。中学のときは、サードしか吹いたことなかったので」
「あー、そっか。今回は辞めないでね。パニック障害だっけ。もう大丈夫なの?」
「それが、この前精神科に行ったんですけど、もうほとんど完治したみたいで。症状も出てないし。薬はまだ少し継続しますけど」
そう答えると、先輩は安心したように笑った。
「そうなんだ。良かったじゃん」
「はい! 吹部のおかげです」
「吹部の?」
「わたし、トランペットも吹部も大好きです。コンクールとか、やっぱり青春だなぁって思って。練習してるといつの間にか病気のことなんて忘れちゃうんです」
だからわたしのパニック障害が治ったのは、吹部のおかげだ。
もちろん、青葉くんともう一度ちゃんと話せたということもあると思うけれど。
楽しそうにクラを吹く青葉くんを見ると、友達として一緒に部活ができることが嬉しく思った。
そんなことを考えていると、突然クラやサックスパートの人たちの手が震えているのに気がついた。
「どうしよう……やっぱり怖い」
「先輩いないイベントなんて、初めてだもんね……」
「松嶋先輩にこの前気合い入れてもらったけど、やっぱり不安だよ」
絵莉ちゃんまで、不安なようだった。
どうにかして励ましてあげたいと思っていると、愛良先輩も気がついていたようで、「注目ー!」と言いながら手をパンパンと叩いた。
「みんな三年の先輩がいない初めてのイベントで、不安が大きいと思う。だけど練習もめっちゃしたし、絶対に大丈夫! だから今日は楽しくやろう!」
「先輩……!」
「はい!」
さすが愛良先輩。部長として、ちゃんと部員のことを見ているんだ。
そして、体育館に小学生が集まってきた。
六年生でも四つくらいしか年が違わないのに、とても若く見える。
「小学生のみなさんこんにちは、奏和田高校です! 部長の松嶋といいます、今日はよろしくお願いしまーす!」
「よろしくお願いします!」
叫び声のような、大きくてハキハキとした小学生の挨拶。
若さだけでなく明るさも持っていて、元気ですごいなと思う。
「ではまず各楽器の紹介をさせていただきたいと思います。木管楽器からです!」
「こんにちは、フルートとピッコロパートです」
フルートとピッコロ、クラリネット、サックスのパート紹介が終わり、金管楽器の出番が来てしまった。
一番最初はトランペットだ。
「こんにちは、トランペットパートです。トランペットは金管楽器のなかで一番、華やかなメロディーやソロを吹くパートです!」
わたしがそう言うと、愛良先輩が「ドレミファソラシド」と音階を吹いた。
先輩のトランペットの音にみんな魅了されているようだった。もちろんわたしも。
「トランペットはぜひ、目立ちたい方にぴったりの楽器です。ぜひ興味を持っていただけたら嬉しいです」
トランペットパートの紹介は終わった。
わたしはひとまず自分の出番が終わったことにホッとしている。
「続いてこんにちは、ホルンパートです! ホルンは優しい音も、芯のある強い音も出すことができます。ギネスで“世界で一番難しい金管楽器”とも登録されているんです!」
ホルンの柔らかい安心感のある音が響き、ホルンパートの紹介が終わった。
「こんにちは、トロンボーン、ユーフォニアム、チューバパートです。わたしたちは各楽器ひとりで活動しています」
「トロンボーンはハッキリした明るい音、ユーフォは丸く優しい音、チューバはみんなを支える低い音が出ます」
「では、そんな三つの楽器が重なった音を聞いてくださーい!」
三つの楽器のハーモニーが鳴り渡り、金管楽器のパート紹介は全て終わった。
打楽器パートも終わり、最後に数曲披露した。
「では小学生のみなさん、ありがとうございました! いつかぜひ奏和田高校に来て吹奏楽部に入部してください!」
「はーい!」
「吹奏楽部入りたーい!」
「吹奏楽部かっこよかったー!」
小学生からのそんな言葉に、わたしはもちろん、みんなも愛良先輩も嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「ありがとー、待ってまーす!」
小学生を見送るため、金管パートはステージから降りた。
わたしは小学生のそばに行こうとすると、女の子が「あの」と話しかけてきた。
「トランペット、やりたいです」
「え……本当に? ありがとう、嬉しい。何年生?」
「六年生」
わたしより全然背が低くて、とても小さく見えた。
小学六年生ってこんなに可愛かったっけ。そう思いながらもわたしは答えた。
「そうなんだ。わたし高校一年生だから、きっとこの部活に入る頃はいないと思うんだけど……でも、ぜひ来てね」
「うん、分かった。さようなら!」
「バイバイ」
来年、あの子が中学生になったとき、吹部でトランペット吹いてたらいいな。
わたしはその女の子に手を振りながら、そう思った。



