体を起こしてカーテンを開けると、眩しい日差しが一気に部屋に入り込んでくる。
大きく背伸びをし、「まだ寝てたい」という気持ちを胸に閉ざして起き上がる。
最初は違和感ばかりだった新しい街での生活も、少し慣れてきた。
「お母さん、おはよう」
「こころ、おはよう。今日から新しい学校ね。どう、緊張してる?」
「うん、そりゃあね。でも精一杯楽しめるように頑張るよ」
そう言うと、お母さんはぎこちない笑みを浮かべた。
……この頃お母さんは、以前よりも体重が大幅に減って、別人のようになっている。それはきっとわたしの病気のことばかり考えていて、心配しているからだと思う。
だからわたしは、笑顔でいなければならない。これ以上お母さんを困らせるようなことはしてはいけない。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
見慣れない、紺色のブレザーに青色のチェック柄のスカートを履いて、家を出る。
一步ずつ歩むと、あたたかい風を感じられた。頬にくすぐったい感覚があり、ふと上を見上げると桜が舞っていた。まるで新学期だね、と言っているかのように。
その桜を見るとふと、約三年前の出来事を思い出す。
忘れもしない、中学二年生のある日。
わたしは“恋”をしていた。だけど、その恋は一瞬で尽きてしまったーー。
入学した頃から、わたしはその子にとても惹かれていた。
名前は 青葉 透くん。サラサラした黒髪と、ほんのり茶色の瞳に、わたしは一瞬で吸い込まれてしまった。
青葉くんはイケメンという特徴だけでなく、勉強やスポーツも得意だった。
だからクラスメイトだけじゃなくて、他クラスにも、先輩にもモテモテだった。
ある日図書室に行くと、青葉くんが席に座って勉強していた。
するとシャーペンがわたしのほうに転がってきて、思わず手に取った。
「あ、ごめんね。拾ってくれてありがとう」
「……っ! い、いえ」
青葉くんは笑顔でわたしに話しかけてくれた。
わたしが緊張して声が裏返ってしまったことを触れずに。
「あのさ、同じクラスの真中さんだよね?」
「え、そ、そうですけど……覚えてくれてたんですか?」
「うん、もちろん覚えてるよ。真中さん、この前のテストでクラス一位だったでしょ? だから勝手にライバル視してたんだよね」
ごめんね、と言いながら青葉くんは微笑んだ。
そんな不意な笑顔にドキッと胸が高鳴ってしまう。
「すごいね、真中さん。勉強得意なんだ」
「い、いえ! あれはたまたまで……」
「もし良ければ今度勉強教えてくれないかな?」
わたしは頭が真っ白になった。
青葉くんに勉強を教える相手がわたしなんかで良いのだろうかという考えが頭によぎった。
それでもこんなチャンス、絶対にないーー。
そう思って、わたしは頷いた。
……けれど、その約束が叶うことはなかった。
その約束をした一週間後、わたしは学校で倒れてしまった。
原因は勉強へのストレス。良い成績を取らないと、という気持ちが次第にプレッシャーになっていったから。
だからわたしは、この恋を諦めることにした。
わたしは病気のせいで、学校に行けなくなってしまった。いわゆる不登校だ。
あのときから一度も、青葉くんに会ったことはない。
成績は良かったから、何とか進学できる高校を探したところ、隣町の学校を先生におすすめされた。
だから引っ越して誰も知り合いがいない高校に進学した。
わたしは、青春を諦めるしかなくなってしまった。
大きく背伸びをし、「まだ寝てたい」という気持ちを胸に閉ざして起き上がる。
最初は違和感ばかりだった新しい街での生活も、少し慣れてきた。
「お母さん、おはよう」
「こころ、おはよう。今日から新しい学校ね。どう、緊張してる?」
「うん、そりゃあね。でも精一杯楽しめるように頑張るよ」
そう言うと、お母さんはぎこちない笑みを浮かべた。
……この頃お母さんは、以前よりも体重が大幅に減って、別人のようになっている。それはきっとわたしの病気のことばかり考えていて、心配しているからだと思う。
だからわたしは、笑顔でいなければならない。これ以上お母さんを困らせるようなことはしてはいけない。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
見慣れない、紺色のブレザーに青色のチェック柄のスカートを履いて、家を出る。
一步ずつ歩むと、あたたかい風を感じられた。頬にくすぐったい感覚があり、ふと上を見上げると桜が舞っていた。まるで新学期だね、と言っているかのように。
その桜を見るとふと、約三年前の出来事を思い出す。
忘れもしない、中学二年生のある日。
わたしは“恋”をしていた。だけど、その恋は一瞬で尽きてしまったーー。
入学した頃から、わたしはその子にとても惹かれていた。
名前は 青葉 透くん。サラサラした黒髪と、ほんのり茶色の瞳に、わたしは一瞬で吸い込まれてしまった。
青葉くんはイケメンという特徴だけでなく、勉強やスポーツも得意だった。
だからクラスメイトだけじゃなくて、他クラスにも、先輩にもモテモテだった。
ある日図書室に行くと、青葉くんが席に座って勉強していた。
するとシャーペンがわたしのほうに転がってきて、思わず手に取った。
「あ、ごめんね。拾ってくれてありがとう」
「……っ! い、いえ」
青葉くんは笑顔でわたしに話しかけてくれた。
わたしが緊張して声が裏返ってしまったことを触れずに。
「あのさ、同じクラスの真中さんだよね?」
「え、そ、そうですけど……覚えてくれてたんですか?」
「うん、もちろん覚えてるよ。真中さん、この前のテストでクラス一位だったでしょ? だから勝手にライバル視してたんだよね」
ごめんね、と言いながら青葉くんは微笑んだ。
そんな不意な笑顔にドキッと胸が高鳴ってしまう。
「すごいね、真中さん。勉強得意なんだ」
「い、いえ! あれはたまたまで……」
「もし良ければ今度勉強教えてくれないかな?」
わたしは頭が真っ白になった。
青葉くんに勉強を教える相手がわたしなんかで良いのだろうかという考えが頭によぎった。
それでもこんなチャンス、絶対にないーー。
そう思って、わたしは頷いた。
……けれど、その約束が叶うことはなかった。
その約束をした一週間後、わたしは学校で倒れてしまった。
原因は勉強へのストレス。良い成績を取らないと、という気持ちが次第にプレッシャーになっていったから。
だからわたしは、この恋を諦めることにした。
わたしは病気のせいで、学校に行けなくなってしまった。いわゆる不登校だ。
あのときから一度も、青葉くんに会ったことはない。
成績は良かったから、何とか進学できる高校を探したところ、隣町の学校を先生におすすめされた。
だから引っ越して誰も知り合いがいない高校に進学した。
わたしは、青春を諦めるしかなくなってしまった。



