翌朝教室へ登校すると、絵莉ちゃんたちが駆けてきた。
わたしは昨日、絵莉ちゃんたちに里奈先輩や愛良先輩と話し合ったことを報告した。
そのことを聞きたいのだろう。
「こころちゃんおはよう! 昨日連絡来たけど……大丈夫だった?」
「結局ファーストは松嶋先輩なんでしょ?」
「うん、そうだよ。心配してくれてありがとう」
「そっかー! まぁ一件落着したみたいで良かったぁ」
みんな心配してくれていたらしい。
もうこれで悩んでいることはない。あとは本気で県大会金賞を目指すだけ。
そう思っていると、青葉くんが「おはよう、真中さん」と声を掛けてくれた。
「おはよ、青葉くん」
「すごいね、真中さんが動いたおかげだよ」
「そんなことないよ。先輩たちはお互いのことちゃんと分かってたし。青葉くんはクラどう?」
「うーん、まぁまぁかな。やっぱり初心者だからね、頑張らないと」
青葉くんが苦笑いすると、瑠夏ちゃんが割り込んで入ってきた。
「噂によると青葉くん、同い年のなかで一番上手いって聞いたよ!?」
「土屋さん。いや、そんなことないよ」
「えー、またまたぁ。さすが青葉くん。何でもできるねぇ」
確かに基礎合奏のときに青葉くんの音を聴いたけど、とても綺麗な音だったし、チューニングもちゃんとできていた。
青葉くんが返事に困っていると、今度は柚乃ちゃんが、
「ちょっと瑠夏。青葉くん困ってるでしょ。全くもう」
と言った。
瑠夏ちゃんを落ち着かせるのが柚乃ちゃんの役目だと、わたしは思ってきた。
瑠夏ちゃんはいつも不満そうだけど。
「えー、ごめーん」
「本当にもう。ごめんね青葉くん、気にしないで」
「いやいや、全然大丈夫だよ。面白いね、真中さんたちのグループは」
「え……そうかな」
わたしたちのグループが、面白い?
みんな目が点になっていて、疑問に思っている様子だった。
「穂村さんはいつも優しくて、周りを見てる。田中さんは落ち着いていて、和ませている。土屋さんは明るいムードメーカー。真中さんはグループを成り立たせてる」
確かに絵莉ちゃんも柚乃ちゃんも瑠夏ちゃんも、青葉くんが言ったことと性格が一致している。
……だけどわたしだけ、あやふやな気が?
「青葉くん、わたしが成り立たせてるって、どういうこと?」
「うーん、言葉にするのは難しいな。真中さんがグループの柱って感じ。リーダーとかそういうことではないんだけど……」
「わたし、そんな役目してるかな。いつも端っこにいて目立たないイメージだと思うんだけど」
「そんなことないよ。四人とも個性があって、なんか良いなーって思ったよ。そういう友情関係、憧れる」
わたしだけじゃなく、わたしの自慢の友達も褒められたから、とても良い気分だった。
帰りのホームルームが終わり、学校生活一日がやっと終わった。
その瞬間、瑠夏ちゃんが「ねぇねぇ」と話しかけてきた。
「今日部活ないしさー、みんなで何か食べに行かない?」
「あー、そっか。いいね」
「行きたい!」
「絵莉も柚乃も決まりね! こころは?」
わたしは特に用もないので頷いた。
平日は火曜日以外部活があるけれど、今日は火曜日。
何だか部活があるのが当たり前になってきているのが不思議な感じだ。
「おっけー! どこにする?」
「駅前のドーナツとかは?」
「いいじゃん、そーしよ! よし、レッツゴー!」
相変わらず瑠夏ちゃんはテンション高いなぁ、なんて微笑ましくなる。
わたしたちは駅前のドーナツ屋に向かうことにした。
こうやってみんなで出かけるのは何気に初めてかもしれない。
「何にしようかなー。ウチ、こう見えてもダイエット中なんだよね」
「瑠夏は三日坊主だから、続くかどうか……」
「ひっどーい、柚乃! いいもん、チョコめっちゃかかってるやつにする!」
「わたしはイチゴかな。こころちゃんと絵莉ちゃんは?」
わたしは迷った末、一番人気のシュガー味にした。
絵莉ちゃんはキャラメル味を手に取っていた。
「ねぇ、写真撮ろー! SNSアップしてもいい?」
瑠夏ちゃんの発言に、わたしたちは一斉に頷いた。
わたしは写真写りが悪いから、本当は写真はあまり好きではない。けれど場を悪くしたら悪いので、何も言わなかった。
「はぁー、美味しい。こういう息抜きって大切だよねー。トロンボーン吹いてるとさ、唇痛くなっちゃう」
「あー、分かる。わたしもホルン吹いてると肩凝る」
「金管は吹いてると口バテるし、肩とか腰も痛くなるよね」
そう言うと、絵莉ちゃんは少し悲しそうな顔をした。
「みんな金管だもんね。わたしは右手の親指が疲れる」
「そうなんだ。サックスのこと全然分からないけど、大変そうだよね」
「だね。みんなお疲れ様だよ」
わたしと柚乃ちゃんと絵莉ちゃんは、ドーナツを頬張りながら話した。
すると瑠夏ちゃんが何かを思いついたように話し始めた。
「それなー! あ、てかさ、聞いてよ! この前沙羅先輩がねぇ、高野先輩とふたりで帰ってて! ウチとあかり先輩で、もしかして付き合ってるのかなって話してたの!」
「えー、そうなんだ。今度葵先輩にも話聞いてみよ」
「あー、いいじゃん! みんなで聞こうよ。そうだ、こころも一緒に事情聴取しよ! 里奈先輩と松嶋先輩も何か知ってるかも!」
「事情聴取って……まぁ、うん、いいけど」
確かに沙羅先輩と高野先輩の話は気になるな。
普段恋愛なんて全く気にならないけど、先輩たちの話は興味が湧いた。
「やったぁ、決まりね! 高野先輩ってミステリアスな雰囲気なのに、恋愛とか興味あるのかなー」
「それはそう。しかも沙羅先輩とだなんて。まぁ家が近いとかだと思うけどさ」
「えー、それだったらショックー。やっぱ金管の先輩って面白いよねー」
わたしは頷きながら瑠夏ちゃんの話を聞いていた。
そのときは気がつかなかった。絵莉ちゃんがとても孤独な思いをしていたなんて。
五時のチャイムが鳴り、わたしたちは解散することにした。
柚乃ちゃんや瑠夏ちゃんとは電車が反対で、現地解散になった。けれど絵莉ちゃんとは途中まで電車が同じだったので、一緒に帰ることにした。
「ねぇ、こころちゃん」
「ん? 絵莉ちゃんどうしたの?」
電車に揺られていると、突然隣に座っていた絵莉ちゃんに話しかけられた。
「あの……さ、今度一緒に出かけない?」
「え、うん。もちろん。またみんなで行こうよ。来週の火曜も部活ないし」
そんなに今日が楽しかったのかな。絵莉ちゃんが楽しんでくれていたなら良かった。
そう思っていると、絵莉ちゃんは俯きながら答えた。
「……そうだね」
「明日からはまた部活だねー。頑張ろうね」
「うん、頑張ろ」
まだわたしには分かっていなかった。
夕暮れの影に隠されている絵莉ちゃんの表情が、今にも泣き出しそうなことを。
わたしは昨日、絵莉ちゃんたちに里奈先輩や愛良先輩と話し合ったことを報告した。
そのことを聞きたいのだろう。
「こころちゃんおはよう! 昨日連絡来たけど……大丈夫だった?」
「結局ファーストは松嶋先輩なんでしょ?」
「うん、そうだよ。心配してくれてありがとう」
「そっかー! まぁ一件落着したみたいで良かったぁ」
みんな心配してくれていたらしい。
もうこれで悩んでいることはない。あとは本気で県大会金賞を目指すだけ。
そう思っていると、青葉くんが「おはよう、真中さん」と声を掛けてくれた。
「おはよ、青葉くん」
「すごいね、真中さんが動いたおかげだよ」
「そんなことないよ。先輩たちはお互いのことちゃんと分かってたし。青葉くんはクラどう?」
「うーん、まぁまぁかな。やっぱり初心者だからね、頑張らないと」
青葉くんが苦笑いすると、瑠夏ちゃんが割り込んで入ってきた。
「噂によると青葉くん、同い年のなかで一番上手いって聞いたよ!?」
「土屋さん。いや、そんなことないよ」
「えー、またまたぁ。さすが青葉くん。何でもできるねぇ」
確かに基礎合奏のときに青葉くんの音を聴いたけど、とても綺麗な音だったし、チューニングもちゃんとできていた。
青葉くんが返事に困っていると、今度は柚乃ちゃんが、
「ちょっと瑠夏。青葉くん困ってるでしょ。全くもう」
と言った。
瑠夏ちゃんを落ち着かせるのが柚乃ちゃんの役目だと、わたしは思ってきた。
瑠夏ちゃんはいつも不満そうだけど。
「えー、ごめーん」
「本当にもう。ごめんね青葉くん、気にしないで」
「いやいや、全然大丈夫だよ。面白いね、真中さんたちのグループは」
「え……そうかな」
わたしたちのグループが、面白い?
みんな目が点になっていて、疑問に思っている様子だった。
「穂村さんはいつも優しくて、周りを見てる。田中さんは落ち着いていて、和ませている。土屋さんは明るいムードメーカー。真中さんはグループを成り立たせてる」
確かに絵莉ちゃんも柚乃ちゃんも瑠夏ちゃんも、青葉くんが言ったことと性格が一致している。
……だけどわたしだけ、あやふやな気が?
「青葉くん、わたしが成り立たせてるって、どういうこと?」
「うーん、言葉にするのは難しいな。真中さんがグループの柱って感じ。リーダーとかそういうことではないんだけど……」
「わたし、そんな役目してるかな。いつも端っこにいて目立たないイメージだと思うんだけど」
「そんなことないよ。四人とも個性があって、なんか良いなーって思ったよ。そういう友情関係、憧れる」
わたしだけじゃなく、わたしの自慢の友達も褒められたから、とても良い気分だった。
帰りのホームルームが終わり、学校生活一日がやっと終わった。
その瞬間、瑠夏ちゃんが「ねぇねぇ」と話しかけてきた。
「今日部活ないしさー、みんなで何か食べに行かない?」
「あー、そっか。いいね」
「行きたい!」
「絵莉も柚乃も決まりね! こころは?」
わたしは特に用もないので頷いた。
平日は火曜日以外部活があるけれど、今日は火曜日。
何だか部活があるのが当たり前になってきているのが不思議な感じだ。
「おっけー! どこにする?」
「駅前のドーナツとかは?」
「いいじゃん、そーしよ! よし、レッツゴー!」
相変わらず瑠夏ちゃんはテンション高いなぁ、なんて微笑ましくなる。
わたしたちは駅前のドーナツ屋に向かうことにした。
こうやってみんなで出かけるのは何気に初めてかもしれない。
「何にしようかなー。ウチ、こう見えてもダイエット中なんだよね」
「瑠夏は三日坊主だから、続くかどうか……」
「ひっどーい、柚乃! いいもん、チョコめっちゃかかってるやつにする!」
「わたしはイチゴかな。こころちゃんと絵莉ちゃんは?」
わたしは迷った末、一番人気のシュガー味にした。
絵莉ちゃんはキャラメル味を手に取っていた。
「ねぇ、写真撮ろー! SNSアップしてもいい?」
瑠夏ちゃんの発言に、わたしたちは一斉に頷いた。
わたしは写真写りが悪いから、本当は写真はあまり好きではない。けれど場を悪くしたら悪いので、何も言わなかった。
「はぁー、美味しい。こういう息抜きって大切だよねー。トロンボーン吹いてるとさ、唇痛くなっちゃう」
「あー、分かる。わたしもホルン吹いてると肩凝る」
「金管は吹いてると口バテるし、肩とか腰も痛くなるよね」
そう言うと、絵莉ちゃんは少し悲しそうな顔をした。
「みんな金管だもんね。わたしは右手の親指が疲れる」
「そうなんだ。サックスのこと全然分からないけど、大変そうだよね」
「だね。みんなお疲れ様だよ」
わたしと柚乃ちゃんと絵莉ちゃんは、ドーナツを頬張りながら話した。
すると瑠夏ちゃんが何かを思いついたように話し始めた。
「それなー! あ、てかさ、聞いてよ! この前沙羅先輩がねぇ、高野先輩とふたりで帰ってて! ウチとあかり先輩で、もしかして付き合ってるのかなって話してたの!」
「えー、そうなんだ。今度葵先輩にも話聞いてみよ」
「あー、いいじゃん! みんなで聞こうよ。そうだ、こころも一緒に事情聴取しよ! 里奈先輩と松嶋先輩も何か知ってるかも!」
「事情聴取って……まぁ、うん、いいけど」
確かに沙羅先輩と高野先輩の話は気になるな。
普段恋愛なんて全く気にならないけど、先輩たちの話は興味が湧いた。
「やったぁ、決まりね! 高野先輩ってミステリアスな雰囲気なのに、恋愛とか興味あるのかなー」
「それはそう。しかも沙羅先輩とだなんて。まぁ家が近いとかだと思うけどさ」
「えー、それだったらショックー。やっぱ金管の先輩って面白いよねー」
わたしは頷きながら瑠夏ちゃんの話を聞いていた。
そのときは気がつかなかった。絵莉ちゃんがとても孤独な思いをしていたなんて。
五時のチャイムが鳴り、わたしたちは解散することにした。
柚乃ちゃんや瑠夏ちゃんとは電車が反対で、現地解散になった。けれど絵莉ちゃんとは途中まで電車が同じだったので、一緒に帰ることにした。
「ねぇ、こころちゃん」
「ん? 絵莉ちゃんどうしたの?」
電車に揺られていると、突然隣に座っていた絵莉ちゃんに話しかけられた。
「あの……さ、今度一緒に出かけない?」
「え、うん。もちろん。またみんなで行こうよ。来週の火曜も部活ないし」
そんなに今日が楽しかったのかな。絵莉ちゃんが楽しんでくれていたなら良かった。
そう思っていると、絵莉ちゃんは俯きながら答えた。
「……そうだね」
「明日からはまた部活だねー。頑張ろうね」
「うん、頑張ろ」
まだわたしには分かっていなかった。
夕暮れの影に隠されている絵莉ちゃんの表情が、今にも泣き出しそうなことを。



