『上手い人が吹いて目標達成するか、達成できなくても最後に三年生が吹いて思い出にするのか。どっちが正解だと思う?』
松嶋先輩のその発言が、ずっと頭でぐるぐると回っている。
先輩のあの瞳が、固い気持ちを表しているようで。簡単には「ファーストを吹きたい」という気持ちを変えることはできないと分かっていた。
「……さん。真中さん」
「え? は、はい!」
「真中さんの番よ。チューニング」
そうだった。今は基礎合奏中。
考え込んでいるうちに、わたしの番が回ってきてしまったようだった。
わたしは慌ててトランペットを構える。
「うん、じゃあどうぞ」
「はい。すみません」
マウスピースに息を入れて、音を出す。
けれどその音はいつもより弱々しくて、トランペットらしくない重い音だった。
ピッチも合っておらず、わたしはクラリネットの先輩と何度か一緒に吹いた。
「うん、だいたい合ってきたけど……真中さんどうしたの。いつもより音が出ていないけど」
「……すみません」
「チューニングには大事だから、これからきちんと練習してね。じゃあ次ホルンパート」
……失敗しちゃった。
合奏中に考え事をしていていつもより下手に吹いてしまうなんて、こんなの楽器奏者として失格だ。
そのあとの合奏も、松嶋先輩の発言がずっと引っかかっていて、ずっと上の空でトランペットを吹いていた。
「こころちゃん、今日どうしたの? 何か変じゃない?」
「それな。こころ、今日ひとりで早く部室行ったし」
「何かあったの?」
絵莉ちゃんや柚乃ちゃん、瑠夏ちゃんから一斉に質問攻めされた。
ひとりで抱え込むのも良くない。合奏にも影響してみんなに迷惑を掛けてしまうから。
そう思って、わたしは松嶋先輩とのことを話した。
「……そうだったの」
「言ってよ! そしたらうちらも加勢したのに!」
「ちょっと瑠夏、落ち着いて。それより、こころちゃんが気に病む必要はないよ。里奈先輩と松嶋先輩の問題なんだし」
柚乃ちゃんが瑠夏ちゃんを落ち着かせながら、そう優しい言葉を掛けてくれた。
「みんな、ありがとう。でも、わたしも一応トランペットパートな訳だし。松嶋先輩、里奈先輩のこと嫌ってるから……ちょっと思うんだ。誰にも相談できないんじゃないかなって」
「……確かに、相談する相手がいなくて、悩んでるのかな。ホルンの先輩とかは?」
「葵先輩? どうかな。松嶋先輩と葵先輩は、結構仲良いみたいたけど……。同い年だと、逆に話しにくいのかも」
わたしたちは、次々に意見を出しあっていく。
「沙羅先輩は? ウチは同じパートだから話しやすいけど、松嶋先輩が話してるところ、あんま見たことないかー」
「んー、そうだよね。木管の先輩とか、もっと話してるところ見たことないし。……もしかしたら松嶋先輩って、人見知りなのかも」
絵莉ちゃんの発言に、わたしはとても共感した。
最初に松嶋先輩と顔合わせたとき、少し大人しそうな先輩だなぁと思ったから。だけど関わっていくうちに話しやすい人だと感じた。
実は人見知り、という可能性が高い。
「じゃあ先輩も同い年もダメなら……こころちゃんは?」
「え? わ、わたし?」
「うん、後輩。それに同じパートだし。なんかわたし見てて思うんだけどね、松嶋先輩はこころちゃんにだけ、心を開いているような気がするんだよね」
「あ、わたしもそう思ってた」
絵莉ちゃんだけでなく、柚乃ちゃんまでそう思っていたなんて……!
そんなことあるだろうか。松嶋先輩がわたしにだけ心を開いているだなんて。
でももしそうなら、わたしに相談したいと思ってくれているかもしれない。
「じゃあ、こころが松嶋先輩に相談乗りますーとか言うっていう作戦はどう!?」
作戦って。そんな戦うわけじゃあるまいし。
と、瑠夏ちゃんに心のなかでツッコミを入れた。
けれどその作戦は良いかもしれないと思った。
「うん、わたしはいいと思う! やってみるよ」
「よっしゃー! 頑張れ、こころ!」
「こころちゃん、頑張ってね」
「頑張って、こころちゃん!」
みんなからの応援の言葉に、わたしはすごく励まされた。
「みんな本当にありがとう。三人がアイデア出してくれなかったら、わたしずっと悩んでた」
「いえいえ。その代わりに、こころちゃんのトランペットの良い音、いっぱい聴かせてよね」
「みんなでコンクール県大会金賞目指すんだから!」
「そうそう!」
……そうだ。何があっても、わたしたちはコンクール県大会金賞を目指している。
それは変わらない。だからわたしは、トランペットを頑張らなくてはいけない。
そのためにも松嶋先輩に寄り添ってちゃんと話を聞こう、と決意した。
松嶋先輩のその発言が、ずっと頭でぐるぐると回っている。
先輩のあの瞳が、固い気持ちを表しているようで。簡単には「ファーストを吹きたい」という気持ちを変えることはできないと分かっていた。
「……さん。真中さん」
「え? は、はい!」
「真中さんの番よ。チューニング」
そうだった。今は基礎合奏中。
考え込んでいるうちに、わたしの番が回ってきてしまったようだった。
わたしは慌ててトランペットを構える。
「うん、じゃあどうぞ」
「はい。すみません」
マウスピースに息を入れて、音を出す。
けれどその音はいつもより弱々しくて、トランペットらしくない重い音だった。
ピッチも合っておらず、わたしはクラリネットの先輩と何度か一緒に吹いた。
「うん、だいたい合ってきたけど……真中さんどうしたの。いつもより音が出ていないけど」
「……すみません」
「チューニングには大事だから、これからきちんと練習してね。じゃあ次ホルンパート」
……失敗しちゃった。
合奏中に考え事をしていていつもより下手に吹いてしまうなんて、こんなの楽器奏者として失格だ。
そのあとの合奏も、松嶋先輩の発言がずっと引っかかっていて、ずっと上の空でトランペットを吹いていた。
「こころちゃん、今日どうしたの? 何か変じゃない?」
「それな。こころ、今日ひとりで早く部室行ったし」
「何かあったの?」
絵莉ちゃんや柚乃ちゃん、瑠夏ちゃんから一斉に質問攻めされた。
ひとりで抱え込むのも良くない。合奏にも影響してみんなに迷惑を掛けてしまうから。
そう思って、わたしは松嶋先輩とのことを話した。
「……そうだったの」
「言ってよ! そしたらうちらも加勢したのに!」
「ちょっと瑠夏、落ち着いて。それより、こころちゃんが気に病む必要はないよ。里奈先輩と松嶋先輩の問題なんだし」
柚乃ちゃんが瑠夏ちゃんを落ち着かせながら、そう優しい言葉を掛けてくれた。
「みんな、ありがとう。でも、わたしも一応トランペットパートな訳だし。松嶋先輩、里奈先輩のこと嫌ってるから……ちょっと思うんだ。誰にも相談できないんじゃないかなって」
「……確かに、相談する相手がいなくて、悩んでるのかな。ホルンの先輩とかは?」
「葵先輩? どうかな。松嶋先輩と葵先輩は、結構仲良いみたいたけど……。同い年だと、逆に話しにくいのかも」
わたしたちは、次々に意見を出しあっていく。
「沙羅先輩は? ウチは同じパートだから話しやすいけど、松嶋先輩が話してるところ、あんま見たことないかー」
「んー、そうだよね。木管の先輩とか、もっと話してるところ見たことないし。……もしかしたら松嶋先輩って、人見知りなのかも」
絵莉ちゃんの発言に、わたしはとても共感した。
最初に松嶋先輩と顔合わせたとき、少し大人しそうな先輩だなぁと思ったから。だけど関わっていくうちに話しやすい人だと感じた。
実は人見知り、という可能性が高い。
「じゃあ先輩も同い年もダメなら……こころちゃんは?」
「え? わ、わたし?」
「うん、後輩。それに同じパートだし。なんかわたし見てて思うんだけどね、松嶋先輩はこころちゃんにだけ、心を開いているような気がするんだよね」
「あ、わたしもそう思ってた」
絵莉ちゃんだけでなく、柚乃ちゃんまでそう思っていたなんて……!
そんなことあるだろうか。松嶋先輩がわたしにだけ心を開いているだなんて。
でももしそうなら、わたしに相談したいと思ってくれているかもしれない。
「じゃあ、こころが松嶋先輩に相談乗りますーとか言うっていう作戦はどう!?」
作戦って。そんな戦うわけじゃあるまいし。
と、瑠夏ちゃんに心のなかでツッコミを入れた。
けれどその作戦は良いかもしれないと思った。
「うん、わたしはいいと思う! やってみるよ」
「よっしゃー! 頑張れ、こころ!」
「こころちゃん、頑張ってね」
「頑張って、こころちゃん!」
みんなからの応援の言葉に、わたしはすごく励まされた。
「みんな本当にありがとう。三人がアイデア出してくれなかったら、わたしずっと悩んでた」
「いえいえ。その代わりに、こころちゃんのトランペットの良い音、いっぱい聴かせてよね」
「みんなでコンクール県大会金賞目指すんだから!」
「そうそう!」
……そうだ。何があっても、わたしたちはコンクール県大会金賞を目指している。
それは変わらない。だからわたしは、トランペットを頑張らなくてはいけない。
そのためにも松嶋先輩に寄り添ってちゃんと話を聞こう、と決意した。



