入学式当日の朝

目覚まし時計を見ると7時30分

「もー!母さん、何で起こしてくれなかったの?!」

「ちゃんと起こしたわよ。もー…ほら、お弁当!」

「あー…今日はお弁当要らなかったのに」

「もー!もっと早く言ってよー!」

「まー、いーや!帰ってから食べるよ。いってきまーす」

慌てて出て行こうとする僕を母さんは引き止める。

「あ、食パンぐらい食べなさい!サト!」

「んもー!急いでるのに!」

僕が苺のジャムがたっぷり塗られた食パンを受け取ると笑顔で見送った。

「はいはい、いってらっしゃい!気をつけてね!」


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「はぁ…はぁ…っ」

暫く走っていると前方に同じ制服を着た男子生徒が河川敷に居た。

どうしたんだろう?具合悪いのかな?

「大丈夫?」

息を整えてから声をかけると

「ん、大丈夫。僕は後から行くから」

「いや、ほっとけないよ。学校も近いし、先生呼んで来るね!」

「あー!もー…本当に大丈夫だから早く…」



その時

みゃ〜と子猫の鳴き声が男子生徒の腕の中から聞こえる。

「猫?」

「そう」

「なんでここに居るの?」

「知らないよ」

「なるほど。捨て猫なのかな?」

「だろうな」

キーンコーンカーンコーンとチャイムが聞こえ、僕達は現実へと引き戻される。

「あ!学校!遅刻!」

「…やっべ!走るぞ!それじゃ、また放課後な」

そう言いながら男子生徒は猫を撫でるのを止めて走り出した。

「またね!猫ちゃん!」

これが僕とシオンくんことシオとの出会いだった。


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入学式から今日で10日目

今日はクラスの親睦会を兼ねた遠足の日。

桜の舞う朝の通学路をのんびりと歩いていると前方につい10日前に友達になったシオンくんが居た。

「おはよ!シオンくん」

「…はよ」

「あ、シオンくんの頭に桜の花びらが付いてるよ」

僕がシオンくんの頭に付いた花びらを取ろうと背伸びする。

「ありがとう。でも、自分でやるから」

「…え?あ、そ…そうだよね!ごめん…」

「…いや、こっちこそごめん…」

沈黙が続き気まずい空気になる。

その空気を変えようと僕はいつもこの河川敷に居る猫の話題に話を逸らす。

「そういえばあの猫の飼い主さん見つからないの?」

「あぁ、だから今日家で飼えないか親に相談するつもり」

「そっか!」

「あぁ」

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河川敷に着くといつものように段ボールに入った猫は顔を上に上げ、目を細めながらグルル…と喉を鳴らす。

優しく撫でているとシオンくんが声をかける。

「さ、早く行こう。また遅刻するぞ」

「あっ!ちょ!待ってよー!」

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教室に着き、お互い自分の席に座るとHRが始まりHRが終わるとそのままグラウンドへと向かう。

「授業サボれるのマジでラッキー」

「だよなー」

クラスメイトの他愛ない会話を聞きながらグラウンドに止まるバスに乗り込んだ。

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バスが走り始めて暫く経った頃

みんな元気におしゃべりをしたり、寝たり、お菓子をつまみながら各々の時間を過ごす。

ふと、車窓を見ると高速道路から海が見えた。

「あ、海…」

「シオンくんいつの間に隣に来たの?」

「ん?つい、さっき」

「……そっか」

「……ん。あのさ、今朝はごめん。折角、桜の花びら取ろうとしてくれたのに…でも恥ずかしかったんだ」

「シオンくん…こっちこそごめんね。僕は全然気にしてないからシオンくんも気にしないで」

「でも、あんな顔されたら…誰だって気にするだろ」

「え?!あんな顔ってどんな顔?!」

「ふっ…ぜってー言わねー」

ニカッと笑ったシオンくんとは普段とはまた違った可愛らしい顔をしていた。