「すみません、以前の知り合いが騒動に巻き込まれてしまったみたいで、グループチャットが大騒ぎなんです。何かできるわけではありませんが」
朔人はスマートフォンをしまった。賢明な判断だと感心しつつも、礼音は自分のスマートフォンを見てしまう。オヤジ達も自分のスマートフォンを出した。
「え!? SAISONは今日のミュージックフェス出ないの!?」
SAISONというバンド名が耳に入り、礼音は身構えてしまった。今日テレビで放送されるミュージックフェスという番組に、SAISONが出演するはずだったが、出演しないらしい。
「今知ったのかよ! ベースのO-tamが季節外れのインフルエンザにかかったとかで、一昨日ニュースになってたよ」
「そうだったのか……残念」
O-tam……田村央哉は、礼音の過去に関わる人物のひとりだ。オヤジ達の話は、そこで終わり、礼音はこっそり安堵した。
「ええ!? あそこで誰か刺されたの!?」
オヤジ達は違う話題でも声が裏返るほど驚いた。近くのテーブルの客や、礼音のグループチャットで騒がれているものと同じ話題だ。
「俺らも事情聴取されるのかな」
「何も関わってないんだから、そうに言えば良いんじゃねえ?」
オヤジ達の話題は、そこで終わった。碧衣が、黙々と野菜や肉を焼いて皆の皿に均等に乗せている。ショタは健気だ。
「……マリンはそのうち人を殺すと思ってたんだよねー。思ったより遅かったわ」
近くのテーブルから、そんな話が聞こえた。先程のテーブルだ。
「あいつ、昔から自分の世界に酔って生きてたから、生きるのがつからったんじゃね? 小学校に入ってすぐにシズマが給食を吐いたことがあったじゃん? マリンの奴、自分の給食に吐かれたからって怒りまくって自分でも吐いたの、俺は今でもよく覚えてるよ」
「あたしも覚えてる! あれは、ないわー! どんだけ自己中心的なの! シズマの面倒も見なかったし、片付けもしないでダウンしてたよね! 自分が悪いのに、勝手にトラウマを抱えて、給食ほとんど食べなくなっちゃって! あ、でも、マリンには良い薬だったかも。あれから中学卒業まで、給食を吐きそうなときはマリンの席まで移動するのがルールになったじゃん。マリンが介抱とか片付けとかするようになって、良かったわ。嫌がらせだって何度も担任に泣きついてたけど、酷い言いがかりだわ。担任を困らせてお姫様気分かよってハッキリ言ってやって正解だったね。明らかにマリンが悪いのに」
「本当に、そうだよねー」
礼音は、背中に寒気を感じた。山田海は、老人ホームの就業初日に、高齢者の飲み食いする姿が気持ち悪かったから、という理由で嘔吐し早退した。あのときは山田海の我儘だと思っていたが、過去を聞くと印象が変わってくる。言ってくれれば良かったのに、と思わなくもないが、あのとき言われても信じるのは難しかったはずだ。今、この場で彼らの口から語られるから、信憑性がある。
「高校3年の文化祭で、アカペラのステージを皆でバックれたじゃん? マリンの奴、独りで歌い切って拍手喝采状態だったのも、まじで許せない」
「ああ、あれ! 悲劇の歌姫! マリンもバックれれば、あんなことにはならなかったのに」
「他に誰も来ないけど責任持って堂々とステージを全うして格好良かったって評判になったから、マリンが推薦で合格した大学にタレコんだよ。アカペラのステージが中止になったのに、知らなかったふりをして勝手に独りで歌って目立つ作戦で文化祭のスタッフに多大な迷惑をかけたって。マリンの合格は取り消しになったけど、一般入試で他の大学に合格しやがって、本当に腹が立つ。そんなに周りに迷惑をかけてまで、悲劇のヒロインになりたいのか」
礼音は黙って、歯を食いしばっていた。ステージを逃げ出した方が悪いんだろうが。主催者に迷惑をかけないようにひとりでもステージに立った山田海の方が、どう考えても立派な対応だ。それなのに、嘘のタレコミをしてまで、山田海の人生を壊したいのかよ。
「あとさ、二十歳の集いの前に、イツキとサヤカが結婚式を挙げたじゃん。披露宴のときのマリンの態度が相当やばかったよね」
「ああ、あれ! マリン劇場!」
「久々に会ったマリンが滅茶苦茶痩せて綺麗になったから、皆で大声でずーっと褒め続けたのに、止めてよって泣きじゃくったんだよね。まじで、ないわー。お祝いの席で我儘発動して泣くとか、大人になったのにモラルが皆無かよ。痩せた話から話題を変えようとするから、話題を変えずに痩せたことを褒め続けたら、今度は過呼吸を起こして式場スタッフを困らせてさ。サヤカがパニック発作を起こしちゃったから、披露宴が中止になったじゃん。マリンのせいで折角の結婚式が台無しだって、イツキもサヤカもぼろぼろに泣いてたよ。二次会でもあれば仕切り直しできたけど、お金の都合で披露宴までしかできなかったから、一層イツキとサヤカが気の毒だったよ。二十歳の集いの後に、マリンを誘わずに二次会代わりの大きなパーティーをやったけど、さすがに披露宴で負った心の傷は回復できないみたい」
「サヤカが遺書を書いて自殺未遂したのって、それが原因だったよね。警察が入って捜査してくれたけど、マリンには罪状が出るような落ち度はないって。イツキの奴、大学まで行ってマリンに抗議したけど、マリンの取り巻きがすでに結婚式のことを聞いてて、マリンの味方になってて、イツキが悪者にされて大学を追い出されて……イツキもサヤカも気の毒だよ。これから楽しい人生が待っていたはずの新婚なのに、マリンに人生を壊されるなんて」
お祝いの場で人の容姿に言及し続けて嫌な思いをさせる方がモラルが皆無だ、と礼音は思う。結婚式に招待されたことはないが、アルバイトで老人ホームの職員を見ていると、栄養管理指導や医学的指導以外で容姿を指摘するのはマナー違反であるという認識がある。老人ホームの職員は、二十代前半の若い世代もいる。そんな彼らも高齢者の尊厳を守って仕事をしている。それなのに、同年代のこいつらは。
礼音が席を立とうとしたが、朔人に止められた。朔人が指差す先を見ると、彼らのテーブルの下に何か貼り付いている。礼音は、彼らに物申すのを止め、様子を見ることにした。
「あんなのが教員採用試験に受かるなんて、あり得ないよね! 介護士に就職したみたいだけど、飲み会に遅れて来たり、約束を破ったり、嫌な感じ! そんな酷いことしたり、自分の意思でやっているように見せないと、お祖母ちゃんが死んじゃうよって言ってあげたら、少しは言うことを聞いてくれるようになったけど……でも、本当にいい加減だよね! 泊まりがけでテーマパークに行くよって言ったのに、仕事で休めないとか吐かしやがるから、無理矢理連れて行かざるを得なかったし、悲しい顔をしやがるから、無理矢理SNSを更新させて楽しむ様子にさせなくちゃならなかったし、朝一番で帰ろうとするから無理矢理引き止めるしかなかったし、出勤扱いにしてもらってねって言ったのにしなかったし、うちらのせいで仕事を解雇されたとか被害妄想するから、前のアルバイト先に就職してねってアドバイスしても再雇用してもらえないし……本当に、あいつ、何なの? 老人ホームで看護師をやってるあたしのお姉ちゃんに頼んで、そこに入所してるマリンのお祖母ちゃんを危篤にさせてもらおうかな。全部全部、マリンのせいだからね。マリンは、あたしのお姉ちゃんも犯罪者にする気なんだもの」
山田海は、祖母を人質に取られて元クラスメイトに脅され、連れ回されていたのだ。本人は、いかにも自分の意思で我儘三昧しているように振る舞っていた。あれも、祖母を守るための演技だったのか?と礼音は思ってしまう。
「おい、見ろよ! 動画が上がってるぞ! マリンが、刺した相手を手当てしようとしてる!」
「マリンが救命してるみたいじゃん! うざ!」
「マリンを庇うコメントばっかりだよ! 抗議しなくちゃ!」
スマートフォンに夢中になる彼らのテーブルに、折茂さんの息子が静かにやってきた。テーブルの下に貼り付けたものをこっそり剥がし、ポケットにいれた。礼音には、ボイスレコーダーに見えた。
「真偽も確かめずにそんなことをするなら、他所でやってくれ」
息子氏の発言に、肉ではなく彼らが火をつけられた。
「俺ら、マリンの被害者の会だよ!」
「そうだよ! 正当防衛をして、何が悪いの!」
「売り上げに貢献してやってんじゃん!」
息子氏が黙ってボイスレコーダーを見せると、彼らは一瞬固まった。
「……裏切ったな」
ひとりが、低い声で唸った。彼らは帰り支度をして、店を出てゆく。金は支払っていった。店が静かになり、息子氏が父親に深く頭を下げた。
「親父、ごめん」
「よく耐えたな。俺こそ、父親らしく守れなくて、ごめん。お前は昔から、表立ってマリンちゃんの味方だったからな。頑張ったよ」
「でも、馴染みのお客様を減らしちゃった」
「他のお客様を増やせば良いだけだよ。そっちのテーブルの残りの肉、こっちで食べるよ……俺個人は、そういうの平気だから」
「俺も平気だよー」
「俺も平気です」
「僕も平気です」
全員一致で、残りの肉は回収してこちらのテーブルで頂くことにした。
礼音のスマートフォンに、新たな通知が2件来た。
ひとつは、SNS。
――刺されたのはSAISONのSHIONだって!
SNSでは、久世施音という人の、SAISONのボーカルSHIONと瓜二つの顔写真が貼られた運転免許証の写真がアップされている。
もうひとつは、姉、久世美音からのメッセージ。
――施音が救急搬送されたって。私が病院に行ってくる。マスコミ対策は私がやるから、礼音は普通に生活して。あんたは何も心配しないで大丈夫だから。
朔人はスマートフォンをしまった。賢明な判断だと感心しつつも、礼音は自分のスマートフォンを見てしまう。オヤジ達も自分のスマートフォンを出した。
「え!? SAISONは今日のミュージックフェス出ないの!?」
SAISONというバンド名が耳に入り、礼音は身構えてしまった。今日テレビで放送されるミュージックフェスという番組に、SAISONが出演するはずだったが、出演しないらしい。
「今知ったのかよ! ベースのO-tamが季節外れのインフルエンザにかかったとかで、一昨日ニュースになってたよ」
「そうだったのか……残念」
O-tam……田村央哉は、礼音の過去に関わる人物のひとりだ。オヤジ達の話は、そこで終わり、礼音はこっそり安堵した。
「ええ!? あそこで誰か刺されたの!?」
オヤジ達は違う話題でも声が裏返るほど驚いた。近くのテーブルの客や、礼音のグループチャットで騒がれているものと同じ話題だ。
「俺らも事情聴取されるのかな」
「何も関わってないんだから、そうに言えば良いんじゃねえ?」
オヤジ達の話題は、そこで終わった。碧衣が、黙々と野菜や肉を焼いて皆の皿に均等に乗せている。ショタは健気だ。
「……マリンはそのうち人を殺すと思ってたんだよねー。思ったより遅かったわ」
近くのテーブルから、そんな話が聞こえた。先程のテーブルだ。
「あいつ、昔から自分の世界に酔って生きてたから、生きるのがつからったんじゃね? 小学校に入ってすぐにシズマが給食を吐いたことがあったじゃん? マリンの奴、自分の給食に吐かれたからって怒りまくって自分でも吐いたの、俺は今でもよく覚えてるよ」
「あたしも覚えてる! あれは、ないわー! どんだけ自己中心的なの! シズマの面倒も見なかったし、片付けもしないでダウンしてたよね! 自分が悪いのに、勝手にトラウマを抱えて、給食ほとんど食べなくなっちゃって! あ、でも、マリンには良い薬だったかも。あれから中学卒業まで、給食を吐きそうなときはマリンの席まで移動するのがルールになったじゃん。マリンが介抱とか片付けとかするようになって、良かったわ。嫌がらせだって何度も担任に泣きついてたけど、酷い言いがかりだわ。担任を困らせてお姫様気分かよってハッキリ言ってやって正解だったね。明らかにマリンが悪いのに」
「本当に、そうだよねー」
礼音は、背中に寒気を感じた。山田海は、老人ホームの就業初日に、高齢者の飲み食いする姿が気持ち悪かったから、という理由で嘔吐し早退した。あのときは山田海の我儘だと思っていたが、過去を聞くと印象が変わってくる。言ってくれれば良かったのに、と思わなくもないが、あのとき言われても信じるのは難しかったはずだ。今、この場で彼らの口から語られるから、信憑性がある。
「高校3年の文化祭で、アカペラのステージを皆でバックれたじゃん? マリンの奴、独りで歌い切って拍手喝采状態だったのも、まじで許せない」
「ああ、あれ! 悲劇の歌姫! マリンもバックれれば、あんなことにはならなかったのに」
「他に誰も来ないけど責任持って堂々とステージを全うして格好良かったって評判になったから、マリンが推薦で合格した大学にタレコんだよ。アカペラのステージが中止になったのに、知らなかったふりをして勝手に独りで歌って目立つ作戦で文化祭のスタッフに多大な迷惑をかけたって。マリンの合格は取り消しになったけど、一般入試で他の大学に合格しやがって、本当に腹が立つ。そんなに周りに迷惑をかけてまで、悲劇のヒロインになりたいのか」
礼音は黙って、歯を食いしばっていた。ステージを逃げ出した方が悪いんだろうが。主催者に迷惑をかけないようにひとりでもステージに立った山田海の方が、どう考えても立派な対応だ。それなのに、嘘のタレコミをしてまで、山田海の人生を壊したいのかよ。
「あとさ、二十歳の集いの前に、イツキとサヤカが結婚式を挙げたじゃん。披露宴のときのマリンの態度が相当やばかったよね」
「ああ、あれ! マリン劇場!」
「久々に会ったマリンが滅茶苦茶痩せて綺麗になったから、皆で大声でずーっと褒め続けたのに、止めてよって泣きじゃくったんだよね。まじで、ないわー。お祝いの席で我儘発動して泣くとか、大人になったのにモラルが皆無かよ。痩せた話から話題を変えようとするから、話題を変えずに痩せたことを褒め続けたら、今度は過呼吸を起こして式場スタッフを困らせてさ。サヤカがパニック発作を起こしちゃったから、披露宴が中止になったじゃん。マリンのせいで折角の結婚式が台無しだって、イツキもサヤカもぼろぼろに泣いてたよ。二次会でもあれば仕切り直しできたけど、お金の都合で披露宴までしかできなかったから、一層イツキとサヤカが気の毒だったよ。二十歳の集いの後に、マリンを誘わずに二次会代わりの大きなパーティーをやったけど、さすがに披露宴で負った心の傷は回復できないみたい」
「サヤカが遺書を書いて自殺未遂したのって、それが原因だったよね。警察が入って捜査してくれたけど、マリンには罪状が出るような落ち度はないって。イツキの奴、大学まで行ってマリンに抗議したけど、マリンの取り巻きがすでに結婚式のことを聞いてて、マリンの味方になってて、イツキが悪者にされて大学を追い出されて……イツキもサヤカも気の毒だよ。これから楽しい人生が待っていたはずの新婚なのに、マリンに人生を壊されるなんて」
お祝いの場で人の容姿に言及し続けて嫌な思いをさせる方がモラルが皆無だ、と礼音は思う。結婚式に招待されたことはないが、アルバイトで老人ホームの職員を見ていると、栄養管理指導や医学的指導以外で容姿を指摘するのはマナー違反であるという認識がある。老人ホームの職員は、二十代前半の若い世代もいる。そんな彼らも高齢者の尊厳を守って仕事をしている。それなのに、同年代のこいつらは。
礼音が席を立とうとしたが、朔人に止められた。朔人が指差す先を見ると、彼らのテーブルの下に何か貼り付いている。礼音は、彼らに物申すのを止め、様子を見ることにした。
「あんなのが教員採用試験に受かるなんて、あり得ないよね! 介護士に就職したみたいだけど、飲み会に遅れて来たり、約束を破ったり、嫌な感じ! そんな酷いことしたり、自分の意思でやっているように見せないと、お祖母ちゃんが死んじゃうよって言ってあげたら、少しは言うことを聞いてくれるようになったけど……でも、本当にいい加減だよね! 泊まりがけでテーマパークに行くよって言ったのに、仕事で休めないとか吐かしやがるから、無理矢理連れて行かざるを得なかったし、悲しい顔をしやがるから、無理矢理SNSを更新させて楽しむ様子にさせなくちゃならなかったし、朝一番で帰ろうとするから無理矢理引き止めるしかなかったし、出勤扱いにしてもらってねって言ったのにしなかったし、うちらのせいで仕事を解雇されたとか被害妄想するから、前のアルバイト先に就職してねってアドバイスしても再雇用してもらえないし……本当に、あいつ、何なの? 老人ホームで看護師をやってるあたしのお姉ちゃんに頼んで、そこに入所してるマリンのお祖母ちゃんを危篤にさせてもらおうかな。全部全部、マリンのせいだからね。マリンは、あたしのお姉ちゃんも犯罪者にする気なんだもの」
山田海は、祖母を人質に取られて元クラスメイトに脅され、連れ回されていたのだ。本人は、いかにも自分の意思で我儘三昧しているように振る舞っていた。あれも、祖母を守るための演技だったのか?と礼音は思ってしまう。
「おい、見ろよ! 動画が上がってるぞ! マリンが、刺した相手を手当てしようとしてる!」
「マリンが救命してるみたいじゃん! うざ!」
「マリンを庇うコメントばっかりだよ! 抗議しなくちゃ!」
スマートフォンに夢中になる彼らのテーブルに、折茂さんの息子が静かにやってきた。テーブルの下に貼り付けたものをこっそり剥がし、ポケットにいれた。礼音には、ボイスレコーダーに見えた。
「真偽も確かめずにそんなことをするなら、他所でやってくれ」
息子氏の発言に、肉ではなく彼らが火をつけられた。
「俺ら、マリンの被害者の会だよ!」
「そうだよ! 正当防衛をして、何が悪いの!」
「売り上げに貢献してやってんじゃん!」
息子氏が黙ってボイスレコーダーを見せると、彼らは一瞬固まった。
「……裏切ったな」
ひとりが、低い声で唸った。彼らは帰り支度をして、店を出てゆく。金は支払っていった。店が静かになり、息子氏が父親に深く頭を下げた。
「親父、ごめん」
「よく耐えたな。俺こそ、父親らしく守れなくて、ごめん。お前は昔から、表立ってマリンちゃんの味方だったからな。頑張ったよ」
「でも、馴染みのお客様を減らしちゃった」
「他のお客様を増やせば良いだけだよ。そっちのテーブルの残りの肉、こっちで食べるよ……俺個人は、そういうの平気だから」
「俺も平気だよー」
「俺も平気です」
「僕も平気です」
全員一致で、残りの肉は回収してこちらのテーブルで頂くことにした。
礼音のスマートフォンに、新たな通知が2件来た。
ひとつは、SNS。
――刺されたのはSAISONのSHIONだって!
SNSでは、久世施音という人の、SAISONのボーカルSHIONと瓜二つの顔写真が貼られた運転免許証の写真がアップされている。
もうひとつは、姉、久世美音からのメッセージ。
――施音が救急搬送されたって。私が病院に行ってくる。マスコミ対策は私がやるから、礼音は普通に生活して。あんたは何も心配しないで大丈夫だから。

