東京で生まれて、東京で育った。吹雪とずっと一緒に西東京の小中学校に通っていた。何でもそろっている街だった。本屋さんもファミレスも、カラオケもボウリング場の徒歩圏内。電車で数駅のところには遊園地だってある。
「さっさとこんなとこ出ていきたい」
それが吹雪の口癖だった。私は吹雪ほど悪口を言われていたわけではないけれど、決してスクールカーストが高い方ではなく、吹雪以外に友達はいなかったから、吹雪の気持ちはよくわかった。
「野蛮な男子ととっととおさらばして、高校デビューすんの」
「じゃあ私も吹雪と同じ学校行く。一緒に派手にデビューしちゃお!」
しかし、高校生で親元を離れて遠くの学校に通うことは現実的ではない。関東全域に渡って複数のキャンパスを持つ麗宝大学の附属高校を受験した。ここに入ればエスカレーターで大学に入ればこの町を離れられる。麗宝高校は家から一駅のところにあるけれど、馬鹿ないじめっ子たちは逆立ちしたって受からない。同じ中学からの合格者は私たち二人だけだった。
「ママがね、頭のいい高校はみんなお行儀がいいから意地悪な男の子いないって言ってたよ」
「うちのお母さんも言ってた。もしかして、彼氏とかできちゃったりしてね」
「きゃー! ミサ可愛いからすぐ彼氏できそう! そしたらいっぱい恋バナしよ!」
入学前の春休み、私たちは馬鹿みたいに浮かれていた。でも、人生そううまくはいかなかった。
「えー、加賀さん109行ったことないって天然記念物じゃーん。おもしろーい」
渋谷や新宿のことを知らない私たちは垢抜けない子の烙印を押された。麗宝中学は二十三区のど真ん中にあるらしい。小学校や中学校からの内部進学者の多くは二十三区に住んでいた。彼らにとってトーキョーとは二十三区のことを言うらしく、私たちは田舎者だった。
「実際加賀さんって天然だよねぇ。なんか世間知らずだしぃ、あ、いい意味でね! 擦れてないってことぉ」
「貞子みたいにテレビの中で暮らしてた感じー? いいじゃーん、そういうマスコットキャラでいこー。加賀さん普通にしゃべってるだけでなんかウケるしー。もちろんいい意味でねー」
偏差値と民度が比例するなんて幻想だ。蓋を開けてみれば「いい意味で」をつければ何を言ってもいいと思っている性悪女子の巣窟だった。そんなやつら相手に愛想笑いを強いられた暗黒時代。たぶん吹雪がいなかったら不登校になっていたと思う。
「あーあ、こんだけ知り合いばっかじゃ大学デビューなんてできないんだろうなー」
「だからってうちの学校受験カリキュラムじゃないから外部受験すんのも現実的じゃないよね。ほんっと、やってらんない」
「なんか大学は恋愛とかどうでもいいから、平穏に過ごせたらそれでいいやって感じ」
「ほんっとそれ。世の中ってさ、理不尽だよね。陽キャでお金持ちで顔もよくて才能も持ってる星のもとに生まれた人と、負け組の星のもとに生まれた人がいるんだもん。不公平だよ」
吹雪とお互いの家で愚痴をこぼしあった。
「ミサだけは私のこと見捨てないでね」
「うん。ずっとずっと友達」
キャンパスの場所が都会になったって田舎になったって、中の人間が同じならそうそうスクールカーストに革命は起こらない。大学生活に対してある種の諦めを抱いたまま私たちは高校を卒業した。
「さっさとこんなとこ出ていきたい」
それが吹雪の口癖だった。私は吹雪ほど悪口を言われていたわけではないけれど、決してスクールカーストが高い方ではなく、吹雪以外に友達はいなかったから、吹雪の気持ちはよくわかった。
「野蛮な男子ととっととおさらばして、高校デビューすんの」
「じゃあ私も吹雪と同じ学校行く。一緒に派手にデビューしちゃお!」
しかし、高校生で親元を離れて遠くの学校に通うことは現実的ではない。関東全域に渡って複数のキャンパスを持つ麗宝大学の附属高校を受験した。ここに入ればエスカレーターで大学に入ればこの町を離れられる。麗宝高校は家から一駅のところにあるけれど、馬鹿ないじめっ子たちは逆立ちしたって受からない。同じ中学からの合格者は私たち二人だけだった。
「ママがね、頭のいい高校はみんなお行儀がいいから意地悪な男の子いないって言ってたよ」
「うちのお母さんも言ってた。もしかして、彼氏とかできちゃったりしてね」
「きゃー! ミサ可愛いからすぐ彼氏できそう! そしたらいっぱい恋バナしよ!」
入学前の春休み、私たちは馬鹿みたいに浮かれていた。でも、人生そううまくはいかなかった。
「えー、加賀さん109行ったことないって天然記念物じゃーん。おもしろーい」
渋谷や新宿のことを知らない私たちは垢抜けない子の烙印を押された。麗宝中学は二十三区のど真ん中にあるらしい。小学校や中学校からの内部進学者の多くは二十三区に住んでいた。彼らにとってトーキョーとは二十三区のことを言うらしく、私たちは田舎者だった。
「実際加賀さんって天然だよねぇ。なんか世間知らずだしぃ、あ、いい意味でね! 擦れてないってことぉ」
「貞子みたいにテレビの中で暮らしてた感じー? いいじゃーん、そういうマスコットキャラでいこー。加賀さん普通にしゃべってるだけでなんかウケるしー。もちろんいい意味でねー」
偏差値と民度が比例するなんて幻想だ。蓋を開けてみれば「いい意味で」をつければ何を言ってもいいと思っている性悪女子の巣窟だった。そんなやつら相手に愛想笑いを強いられた暗黒時代。たぶん吹雪がいなかったら不登校になっていたと思う。
「あーあ、こんだけ知り合いばっかじゃ大学デビューなんてできないんだろうなー」
「だからってうちの学校受験カリキュラムじゃないから外部受験すんのも現実的じゃないよね。ほんっと、やってらんない」
「なんか大学は恋愛とかどうでもいいから、平穏に過ごせたらそれでいいやって感じ」
「ほんっとそれ。世の中ってさ、理不尽だよね。陽キャでお金持ちで顔もよくて才能も持ってる星のもとに生まれた人と、負け組の星のもとに生まれた人がいるんだもん。不公平だよ」
吹雪とお互いの家で愚痴をこぼしあった。
「ミサだけは私のこと見捨てないでね」
「うん。ずっとずっと友達」
キャンパスの場所が都会になったって田舎になったって、中の人間が同じならそうそうスクールカーストに革命は起こらない。大学生活に対してある種の諦めを抱いたまま私たちは高校を卒業した。



