数日後、事件の全容が明らかになる。
 記憶研究プロジェクトは完全に停止され、関係者は全員逮捕された。ただし加藤は、田所の証言もあって執行猶予付きの判決を受ける。
 そして最も重要なことは、町の子供たちが記憶の物質化能力を保持し続けたことだった。
「これからどうしよう?」
 鈴木が訊く。
 僕たちは学校の屋上にいた。事件から一週間が経ち、日常が戻りつつある。
「普通に生活しよう」
 僕が答える。
「でも、この力は大切に使おう」
 山田さんが微笑む。
「未来視で見えた」
 彼女が言う。
「私たちは将来、記憶と時間の研究者になる。そして今度は、人を救うためにこの力を使う」
「研究者?」
「そう。正しい方法で記憶を研究し、アルツハイマー病や記憶障害で苦しむ人々を助ける」
 それは素晴らしい未来だった。
「でも今は」
 僕が立ち上がる。
「普通の中学生として、毎日を大切に過ごそう」
 仲間たちが頷く。
 僕たちは確かに特別な力を手に入れた。でも同時に、普通の日常がどれほど大切かも学んだ。
 友達との何気ない会話。家族との食事。学校での授業。部活動。恋愛。喧嘩。仲直り。
 そんな日常の一つひとつが、かけがえのない記憶になるのだ。
 夕日が町を染める中、僕たちは学校から家に向かう。
「また明日」
 山田さんが手を振る。
「また明日」
 僕も手を振り返す。
 そして心の中で思う。
 この町で、この仲間たちと過ごす時間が、僕の最も大切な記憶になるだろう。
 そして将来、振り返った時に思うはずだ。
 あの夏、僕たちは世界を救った。でも何より大切だったのは、一緒に戦ってくれる仲間がいたこと。支え合える友達がいたこと。愛する家族がいたこと。
 記憶は時として、現実よりも強い力を持つ。
 なぜなら記憶こそが、僕たちが生きてきた証であり、これから生きていく原動力だから。
 僕たちの物語は終わった。
 でも僕たちの記憶は、永遠に続いていく。
 虹色に輝きながら。