澄香が練習に現れなくなって、三日が経った。
心音はその間、何度もスマホを手に取り、澄香にメッセージを打っては消した。
「私が何か言えば、彼女は戻ってくるだろうか──」
だけど、空気のように馴染んでいたはずの音が、不意に乱れた今、その距離の詰め方がわからなかった。
昼休みの音楽室。
心音はひとりでヴァイオリンを弾いていた。
静かに響く旋律。けれど、どこか空虚だった。
「……心音」
ふいに背後から声をかけられ、彼女は顔を上げる。
神谷奏多だった。制服のポケットに手を突っ込んだまま、彼は小さくため息をついた。
「今日は、アンサンブル練習、中止にしよう。今の状態じゃ、意味がない」
その言葉に、心音は胸がきゅっと締め付けられるのを感じた。
「……澄香ちゃん、戻ってこないと思いますか?」
「さあな。でも──待ってるだけじゃ、何も変わらない」
そう言った彼の声は、どこか優しかった。
「俺さ。思うんだ。音ってさ、正しさじゃなくて、気持ちを伝えるものだって」
「気持ち……」
「お前の音、最近は澄香のほうを見てなかった。ずっと、自分の“正しさ”だけ見てた」
その言葉は、深く、痛いほど胸に刺さった。
その日の放課後、心音は思いきって澄香の教室を訪ねた。だが、彼女の姿はなかった。
「石井さん、今日は早退したよ」
クラスメイトの言葉に、心音はそっと口元を引き結んだ。
夜。
六人のグループチャットに、メッセージが届いた。
> 澄香:ごめんなさい。少し距離を置きたいです。しばらく、アンサンブルには参加できません。
静まり返ったグループチャット。
その数分後、誰よりも早く返事を送ったのは、チェロ奏者・佐伯陸だった。
> 陸:わかった。待ってるよ。
短い一言に込められた、まっすぐな気持ち。
美月も、綾乃も、それぞれの言葉で返事をした。
そして──心音も、震える指で打ち込んだ。
> 心音:私は、あなたの音が好き。ずっと待ってる。戻ってくる場所は、なくしていないから。
そのメッセージが既読になることは、その夜はなかった。
心音はその間、何度もスマホを手に取り、澄香にメッセージを打っては消した。
「私が何か言えば、彼女は戻ってくるだろうか──」
だけど、空気のように馴染んでいたはずの音が、不意に乱れた今、その距離の詰め方がわからなかった。
昼休みの音楽室。
心音はひとりでヴァイオリンを弾いていた。
静かに響く旋律。けれど、どこか空虚だった。
「……心音」
ふいに背後から声をかけられ、彼女は顔を上げる。
神谷奏多だった。制服のポケットに手を突っ込んだまま、彼は小さくため息をついた。
「今日は、アンサンブル練習、中止にしよう。今の状態じゃ、意味がない」
その言葉に、心音は胸がきゅっと締め付けられるのを感じた。
「……澄香ちゃん、戻ってこないと思いますか?」
「さあな。でも──待ってるだけじゃ、何も変わらない」
そう言った彼の声は、どこか優しかった。
「俺さ。思うんだ。音ってさ、正しさじゃなくて、気持ちを伝えるものだって」
「気持ち……」
「お前の音、最近は澄香のほうを見てなかった。ずっと、自分の“正しさ”だけ見てた」
その言葉は、深く、痛いほど胸に刺さった。
その日の放課後、心音は思いきって澄香の教室を訪ねた。だが、彼女の姿はなかった。
「石井さん、今日は早退したよ」
クラスメイトの言葉に、心音はそっと口元を引き結んだ。
夜。
六人のグループチャットに、メッセージが届いた。
> 澄香:ごめんなさい。少し距離を置きたいです。しばらく、アンサンブルには参加できません。
静まり返ったグループチャット。
その数分後、誰よりも早く返事を送ったのは、チェロ奏者・佐伯陸だった。
> 陸:わかった。待ってるよ。
短い一言に込められた、まっすぐな気持ち。
美月も、綾乃も、それぞれの言葉で返事をした。
そして──心音も、震える指で打ち込んだ。
> 心音:私は、あなたの音が好き。ずっと待ってる。戻ってくる場所は、なくしていないから。
そのメッセージが既読になることは、その夜はなかった。



