「……わかりました。あとは俺がやります。お手数おかけしてどうもすみませんでした」


佐渡の適当過ぎる仕事っぷりを見ているうちに、吉野は平常心を取り戻す。


「ここまで来たら、俺も手伝うよ。そうだ吉野くん、終わったらさ、クレープ食べて帰ろうか」


この人はひょっとして女子なのだろうか。恋バナしかりクレープしかり。


「遠慮しておきます。終わったら真っすぐ帰って宿題したいので」

「真面目だねー。じゃあ、俺が見てあげるよ、宿題。昔もよく見てあげてたしね」

「……先輩は本当に“ただ見ていた”だけですけどね」


そして横から口を挟んでくるのだ。
その公式は大事そうに見せかけてテストには出ないとか、この教科書の端っこに載っている顔写真に落書きするなら髭はマストだとか、よくそんなにきっちりノートが取れるね眠くならないの?とか。


「吉野くんは優秀だからね。悲しいかな、俺が教えるべきことなんてないんだよ」


まあ勉強以外でなら、教えられることたくさんありそうだけど。と付け足された言葉は、独り言じみていたので聞こえなかったことにした。