「どういう意味だ。お前のそれは、誰が見たって好きだろうが」


今の話を聞いて、好きじゃないと思う方がおかしい。まあ、多少歪んだ好意は感じられるけれど、それでも好意は好意だ。
それなのに佐渡は、「さあ、どうだろうね」なんて答える。


「俺が世那のことをどう思ってるかは、俺だけの秘密。世那にも秘密。だって、その方が面白いから」


世那の反応が、と小声で付け足された言葉は、川居の耳には届かなかった。
けれどしっかりと聞こえた部分だけで、川居には充分だった。


「お前はあれだな、性格が悪いっていうより、歪んでるんだな」


でも猫被りだから、佐渡の周りに集う人達はそのことを知らない。自分も知らない方が幸せだったのでは?なんてたまに思う川居だが、知ってしまった今となってはもう遅い。


「じゃあな。図書室出る時、その隠してるパンを忘れるなよ」


そう言って、川居は佐渡の返事を待たずに図書室を出る。そして向かう先は、幼馴染みが職権乱用中の保健室。


「あれで好きじゃないなら、歪んでるなんてもんじゃなく性格が終わってるぞ」


思わず呟いた言葉は、ひっそりとした廊下で誰の耳にも届かず消えた。