「小学生の世那も、すごく可愛かったんだよ。泣き虫でさ。初めは俺にも人見知りしてたんだけど、しょっちゅう会ってたら段々懐いて来て、どこに行くにも後ろをぴこぴこついてくんの。もう可愛くってさ」


その頃の吉野を思い出しているのか、佐渡は時折口元に笑みを浮かべながら上機嫌に語る。


「あんまり可愛いからつい意地悪したくなって、急に走り出して撒いてみたりするの。びっくりして目をまん丸にして、必死で追いかけてくるのも可愛かったし、追い付けなくて見失って泣いちゃうところも堪んなかったな」


幸せそうな佐渡に、川居は改めて性格の悪さを感じずにはいられなかったが、口には出さないで置いた。


「お前が吉野のことをとんでもなく好きだってことはよくわかった。わかったところで俺はそろそろ行く。カイのバカを起こしに行かないといけないからな」


お前も次の授業遅刻するなよ、とカウンターの前を通り過ぎたところで、「なるほど、川居にはそんな風に見えるんだね」と佐渡の呟く声がした。
川居は、ドアの前で立ち止まって振り返る。