「おい、佐渡」


吉野がいなくなった図書室に、佐渡を呼ぶ声が響く。そちらの方に視線を向けると、カウンターからは死角になっている棚の裏から、男子生徒が現れた。


「なんだ川居(かわい)、まだいたの」


川居と呼ばれた男子生徒は、深々とため息をつきながらカウンターへと近付く。


「お前、わかってて言ってるところが性格悪いぞ」

「川居こそ、俺と世那との会話を盗み聞きなんて趣味悪いぞー」


にやにやしている佐渡には、これ以上何を言っても無駄だと察して、川居は諦めのため息を一つ。


「あの後輩も、お前におちょくられて可哀そうにな」

「んー?誰の事言ってんの?」

「さっきまでここにいた後輩、お前が今さっき“世那”って呼んでた」


“世那”と川居が口にした瞬間、語尾に被せるようにして「川居」と佐渡が呼ぶ。
その顔には笑顔が浮かんでいるが、目は笑っていなかった。