「何でもありません」


そう答えて、吉野は佐渡の手から自分の手を抜いた。
抜く瞬間に引き留めるように握られるだろうかと思ったが、予想に反してあっさりと手は引き抜けた。


「なあに?残念そうな顔して」

「……してません、そんな顔」

「そお?」


にやにやしないでほしい。


「ところで先輩、ここ飲食禁止ですよ」


このまま佐渡にからかわれるのを避けるため、吉野は流れを変えるようにカウンター内に入った時から気になっていた物を指差す。
カウンターの内側、利用者からは見えない部分に設置されているテーブルに、食べかけの菓子パンと漫画本が置いてある。


「育ち盛りだからさー、お弁当だけじゃ足りないんだよね」

「だったら食べてから来ればよかったじゃないですか」

「食べながら来たんだよねー」

「……校内食べ歩き禁止ですけど」


バレなきゃいいんだよ、なんて言う佐渡に、吉野は呆れた。