その声に、またしても下の名前を呼ばれたことに、不覚にもドキッとしてしまった吉野は、慌てて動いたことで手をかけていた本を棚から落としてしまった。
しかも運の悪いことに、その一冊が抜けたことによって、その段の本が雪崩を起こしたように次々と落ちる。
どうやらその詩集は、適当に戻しただけでなく無理矢理押し込まれていたらしい。

ドキドキと高鳴る心臓に、吉野は必死で平常心!と唱える。こういう時、表情筋が仕事放棄していてよかったと心底思う。
どれだけ心の中が騒がしかろうとも、顔はいつも通り。佐渡曰く仏頂面だ。
それでも、頬は若干熱いので、もしかしたら赤くなっているかもしれない。それをネタにからかわれることを避けるため、吉野は佐渡に顔が見えないよう、申し訳なさそうに項垂れた。
それに合わせて、「すみません……」と謝罪も口にしておく。


「吉野くんって、しっかりしてそうで案外ドジだよね。たまに、階段につまずいたりしてるし」


確かにたまにやらかすが、まさか佐渡に見られていたとは思わなかった。