「昔はよく膝に乗ってたんだから、今更恥ずかしがることないんだよ」

「ちょいちょい過去を捏造するのやめてもらえません?」


佐渡の隣に座った吉野は、未だゆるっと握られている手に視線を落とす。
抜こうと思えば簡単に抜ける、そういう力のこもっていない握り方。まるで、抜くかどうかの判断は吉野に任せているような。


「吉野くん」


呼ばれて顔を上げると、「どうしたの?」と問いかける佐渡の口角が上がっていた。
握られた手をじっと見つめていたことに気付いての問いかけだろう。ということはその口角の上りは、吉野の反応を見て楽しんでいるに違いない。

こういう時に、自分は佐渡に遊ばれているのだということをひしひしと感じる。
それでも、吉野は佐渡を嫌いにはなれないのだ。嫌いになれたらどんなに楽だろうと思いながら、片想いを募らせてしまう自分がいる。