「いい、吉野くんはたった今俺に会いに来るって言う予定が出来たんだから、他の誰がそこに割り込みを試みようとも、吉野くんは断固拒否するんだよ。ほいほいついて行ったりしたらダメだからね」


友達のいない吉野の昼休みに、一体誰が予定を割り込ませようと試みるというのか。そもそも、吉野は佐渡に会いに図書室に行くことを了承してもいないし。


「吉野くん、お返事は?」

「……俺のこと、何歳児だと思ってるんですか」

「何歳になったって返事は大事だよ。そうでしょ?」


それは確かにそうだが、言い方が完全に園児か小学校低学年向けだった。


「吉野くん?」

「……わかりました。昼休みに図書室に行けばいいんですよね」


佐渡は上機嫌に笑って「よく出来ました」なんて吉野の頭を撫でる。


「じゃあ、またあとでね。――待ってるからね、世那」


笑顔で手を振り、佐渡は先を行く背中を追いかけていく。それを見送っていた吉野は、その背中が見えなくなったところで深く息を吐いた。
手を当てた頬は熱くて、佐渡の息が吹きかかった耳も熱を持っていて、鏡を見なくても、自分の顔が、そして耳が、赤くなっていることはよくわかった。