「吉野くん、今日の昼休み図書室においでよ」

「……俺、今日は図書当番じゃないですけど」


知ってる、と佐渡が笑う。


「俺が当番だから。会いに来て。俺もこの間会いに行ったでしょ?」


会いに来てくれるなら離してあげる、なんて佐渡が耳元で囁く。とても楽しそうに囁く。


「っ、くすぐったいから、耳元で喋らないでください」


耳に息が吹きかかるとくすぐったくて、そのくすぐったさから逃れたくて吉野は身をよじる。その反応に佐渡が機嫌よさげに笑みを浮かべていると


「佐渡」


呼ぶ声がして、それに反応した佐渡が吉野を抱きしめたままで振り返った。
流石の吉野も、体を勢いよくぐるっと反転させられたら、驚いて「おわっ!」と大きな声も出る。
おかげで、駆け寄って来ていた人物も驚いたように足を止めた。

目が合ったその人は、吉野も顔を知っている。佐渡とあともう一人と、三人で一緒にいるところを見たことがあった。