「離してほしいの?本当に?」

「……っ、当たり前じゃないですか」


一瞬言い淀んでしまったことを悟られぬよう、吉野は言い返すと共に背後の佐渡を軽く睨む。
吉野に睨まれて怯むどころか佐渡は


「吉野くんは怒った顔も可愛いよねー」


なんて言って、「ほんと可愛いねー」と更に強く抱きしめる始末。
ふざけないでください、と吉野が腕を振りほどこうとしても、そんなささやかな抵抗など佐渡にはまるで通じない。


「先輩、ここ廊下ですよ、わかってますか」

「それはつまり、二人きりになりたいなーってこと?」


抵抗も通じないが、言葉も通じない。


「違います。周りの視線が痛いのでやめてくださいって言いたいんです」


身をよじる吉野を難なく抑え込みながら、佐渡は「ほんとだねー、見られてるねー」なんて言って笑っている。


「わかってるなら離してください」


常に人に囲まれていて注目を浴びることに慣れている佐渡と違って、吉野は空気生活が長いので、周りの視線が気になって仕方がない。
それに早急に離してほしい理由はもう一つ、こちらの方が理由としては大きいのだが、先ほどから心臓がバクバクと煩いのだ。