「まったく、吉野くんは恥ずかしがり屋だなー。そういえば昔、クラスの女子に可愛い可愛いって言われて、恥ずかし過ぎて泣いてたことあったっけ」

「いつの話を……!」


佐渡相手にムキになったら負けだと頭ではわかっているけれど、つい言い返したくなる、言い返してしまうのはどうしようもない。条件反射みたいなものだ。

ひとまず平常心を取り戻すために手を動かそう、仕事をしようと、吉野は目の前の棚の、明らかにこの棚の住人ではない本に手をかける。
なぜ歴史小説が並ぶ棚に詩集が混じっているのか。適当に戻すにも程がある。

抜き取ろうと本を引っ張ったところで、ふと手元に影が差す。顔を上げると、すぐ横に佐渡が立っていた。
自分より上背のあるいかにも女子受けしそうな顔の整った男が、口元に笑みを浮かべて吉野を見下ろしていた。


「誰も見てないから、俺にだけ笑ってみせて。――ね?世那」


低めた声で囁くように、まるで内緒話をするように佐渡が言う。