「そうじゃないってわかってたでしょ」

「そんなこともないよ。約一名があまりにも気合いの入った感じだったから、もしかしてとは思った」

「それを思ったうえで声をかけたんですか」

「うん」


正直な返事と笑顔に、吉野は言い返す気力を失った。結局佐渡は、無神経というより吉野をからかったり困らせたりして遊ぶのが楽しいのだろう。
そういう性格のよろしくないところから佐渡を嫌いになれたら楽なのにと、吉野は思う。


「吉野くん、カバン持ってるってことは今帰りだよね?」

「そうですね」


帰ろうとしたところで、女子の集団に捕まっていたわけだから。


「じゃあ行こっか」

「……はい?」


何が“じゃあ”なのか。


「おい佐渡、行くのはいいがせめて俺達に一言あるべきだろ」

「しょうがないよ。もう僕らのことなんて見えてないから」


二人の言葉に、佐渡が思い出したように振り返る。


「カラオケはお二人でどうぞ」

「カラオケじゃないゲームセンターだ」

「そうだよ。こいつ音痴だからカラオケNGだし」

「誰が音痴だ」