「ねえ、ちょっと笑ってみてよ」

「……何でですか」


唐突過ぎる要求に、吉野の表情が思わず険しくなる。何か企んでいるのか、何を企んでいるんだと疑ってしまう。


「久しぶりに、吉野くんの笑顔が見たいから。吉野くんの笑顔、可愛いから好きなんだよねー」


佐渡の言葉に、不覚にもドキッとする。けれど吉野は、平常心!と自分に強く言い聞かせて、反応しそうになるのを抑えた。


「だからさ、ね?ちょっと笑ってごらんよ。――世那」

「……っ」


思わず、佐渡の方を見てしまう。
ここで名前を呼ぶのは、それは、反則だ。

吉野の反応に、佐渡は可笑しそうに口元を緩める。


「そういう驚いた顔も、可愛いよね」


平常心、平常心!!と最早呪文のように心の中で唱えながら、吉野はさっと視線を外すと、本棚の間に入って佐渡の視界から姿を消し、自身の視界からも佐渡の姿を消し去る。


「あれ?おーい吉野くん、見えないよー」


見えないように、そして見ないように隠れたんだから当たり前だ。