君の声は甘く優しく、募る想いは切なく苦しく

「世那」


不意に名前を呼ばれて、反応する間もなく体に腕が回される。ぎゅっと抱きしめるのと同時に、吉野の背中に佐渡の顔が埋まった。


「ちょっ……!?ゆ――先輩!」


びっくりし過ぎて危うく名前を呼びそうになって、すんでのところで堪える。
佐渡は吉野の背中にぐりぐりと顔を押し付けてから、大きく息を吸い込んだ。


「やっぱり、いい匂い……すごく落ち着く」


心臓が跳ねる。鼓動が、どんどん早くなる。
佐渡にも聞こえているんじゃないかと思ったら余計に鼓動が早まって、いくら平常心と唱えても、ちっとも収まってはくれない。

そんな風にただの先輩後輩とは思えないような距離感で接して来るから、時折思い出したように“世那”と親しげに名前を呼んでくるから、諦めようにも諦められないのだ。もしかしたら……なんて期待してしまうのだ。

そんなこと、あるわけがないのに。

ふふっと背中で笑う声がしたかと思ったら、「本当に世那は可愛いね」と佐渡が呟いた。