君の声は甘く優しく、募る想いは切なく苦しく

「さっきの子、一年生なんだね。初々しいね。一年前の吉野くんみたい」

「俺はあんなに初々しくはなかったです」


吉野の場合、入学時に胸を占めていたのは、新しい学校生活に対する期待と不安ではなくて、これからまた佐渡と同じ学校で過ごせるのだという喜びだった。


「そうかな?吉野くんも一年生らしく初々しかったと思うけどね」


そう言って佐渡は、興味を失くしたようにノートから視線を外す。

佐渡は、気が付いていたのだろうか。彼女が立ち去る前、佐渡のことを見ていたことに。その頬がほんの少し、赤く染まっていたことに。
たったそれだけのこと。別に、目の前で告白されたわけでもない。
でも、たったそれだけ、想いのこもった視線を投げかけているのを見ただけで、吉野の胸は鈍く痛む。

彼女は、その気になれば佐渡に自分の想いを告げることが出来る。でも吉野がそれをするには、勇気以上に覚悟が必要だ。伝えた後、どうなってもいいと思える覚悟。
吉野は、こうして佐渡のそばにいられる時間を失うのが怖かった。
それに吉野は男で、佐渡もまた男だから、そういう意味で二人の間に立ちはだかる壁は大きい。