「本当に?」


佐渡の声が、とても近い。近過ぎて、収まりかけた鼓動がまたドキドキと早くなる。


「だったら、俺の方を見て、もう一回ちゃんと言ってみて。――世那」


ああ、もう。もう本当に、本当にこの人は……!

吉野は、悔し紛れに佐渡の方を睨み付ける。それを受ける佐渡の顔には、笑みが広がっていた。


「可愛いね、世那は。そういうところが、本当に可愛い」


苦しくて、苦しくて、どうしようもない。どうしようもなく、佐渡のことが――。


「これからもずっと、俺のことを想っていて。俺だけを想う、可愛い世那でいて。俺は――――」


俺は――、なんだろう。続く言葉は、小さ過ぎて聞き取れなかった。
いやもしかしたら、何も続けなかったのかもしれない。唇が動いていなかったと言われたら、そんな気もする。

下校時刻を告げるチャイムが鳴り響いて、佐渡が「もうそんな時間か」と顔を上げる。
そして立ち上がると、「立てる?吉野くん」と手を差し出した。