君の声は甘く優しく、募る想いは切なく苦しく

「怒った顔も可愛いよ、吉野くん」

「誤魔化さないでください。あと、これは怒っているんじゃなくて呆れているんです」

「どっちにしても可愛いよ」


吉野は別に“可愛い”と言われても嬉しくも何ともないのだが、佐渡は口癖のごとく吉野に対してその言葉を口にする。
ひょっとして、吉野が“可愛い”と言われて喜ぶと思っているのだろうか。まさかな。

佐渡がカウンター内に入って来たところで、入れ違うように吉野は立ち上がってカウンターを出る。


「あれ、吉野くんどこ行くの?まさか帰るの?」

「そんなわけないでしょ。返却されてきた本を戻しに行くんです」


カウンターを出る時に、出入り口の端っこに置いてある“返却本入れ”と書かかれたカゴを、吉野は抱えていた。

本の整理をする時だって頼んでも手伝ってくれないのだから、どうせ今回もと思って吉野は一人でやるつもりだったのだが、予想に反して佐渡は「手伝うよ」と吉野を追いかけてカウンターを出てきた。
吉野が驚いて佐渡を見ると、「なに?」と首を傾げられる。「何でもありません」と返して、吉野は進行方向に向き直った。