そういう部分を見て、佐渡のことを嫌いになれたらどれほど楽だろうといつも思う。
いや、そもそも本気で嫌いになりたいのなら、佐渡と同じ高校に進学するべきではなかったのだ。
あの時佐渡が言ったことなんて、無視してしまえばよかったのだ。

――「同じ高校においでよ。待ってるよ、世那」

あの言葉を、嬉しいと思ってしまった。どうしようもなく嬉しいと。
胸の中でぐるぐると渦巻く気持ちをどうにかしたくて、吉野は深く息を吐く。すると近くで、くすっと笑う声が聞こえた。


「随分と思いのこもったため息だね」


佐渡が、しゃがみ込む吉野を見下ろして笑っている。
いつの間に近付いてきていたのだろう。こんなにも静かな空間で、佐渡の足音にまるで気が付かなかった。


「……ひとがため息ついてるのを見て笑うなんて、先輩は酷い人ですよね」


というより、性格がねじれている。


「そりゃあ、笑顔にもなっちゃうでしょ。なにせ、俺のことを思ってのため息だからね」

「……勘違いです」


佐渡は吉野との距離を詰めると、すぐ横に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。