歴史小説の棚に詩集が混じっていた時は、適当に戻した人物に憤ったけれど、今では若干感謝しつつある。

佐渡がいる歴史小説の棚と、吉野が逃げてきた詩集の棚は、間に三つ棚を挟んでいるので距離がある。
その距離が、今の吉野には有難かった。


「……ほんともう、なんなんだよ……」


小さく、小さく呟いて、吉野はその場にずるずるとしゃがみ込む。

放課後の図書室に二人きり、何だかんだ言いつつ、その状況を嬉しいと思っていることを、佐渡には気づかれたくなかった。
昔からいつもそう。一緒にいることを嬉しいと思っていることは、佐渡には気づかれたくないのに、気付かれないように気を付けているのに、どうしてだか気付かれてしまう。
わかりやすく表情に出しているつもりはない。それは何度か、窓ガラスに映った自分の顔を見て確認済みだ。
それなのに佐渡は、吉野の顔を見て何かを察したように笑みを浮かべるのだ。

そして笑顔で、吉野をからかってくる。いつもは隠している性格のよろしくない部分が、ちらりと顔を出す。