君の声は甘く優しく、募る想いは切なく苦しく

気付かれたと思ったのは吉野の勘違いで、実は佐渡は吉野の気持ちに気が付いてなどいないのだろうか。それならば、変わらない態度にも納得出来る。
でもそれは、希望的観測でしかない。

だってあの時、佐渡は確かに言ったのだ――「世那は俺のことが好きなんだから」と。

あれは、吉野の想いに気が付いているという意味ではなかったのだろうか。佐渡お得意のからかいだったのだろうか。佐渡が言う“好き”には、深い意味などないのだろうか。
これから先も、密かに佐渡を想い続けることは許されるのだろうか。


「なるほど、確かに俺はまだ、吉野くんのものではないかもね」


ん?……“まだ”?


「それじゃあ吉野くんは、誰かに取られちゃう前に、俺を自分のものにしないとダメだね」


引っかかった言葉に首を傾げる吉野に構わず、佐渡は笑顔で続ける。
カウンターに背を預け前に向けていた顔が、不意に吉野の方を向く。そこには、悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。


「ねえ世那、頑張って俺を、世那のものにしてみせて」


その瞬間吉野の心臓が、ひときわ大きく脈打った。