佐渡が、じっと吉野を見上げる。その視線を受け止めて、吉野は佐渡を見下ろす。
珍しい構図ではある。佐渡に見上げられるということは中々ないことでもある。でも、やっぱりよさというのはよくわからない。よくわからないけれど……。


「あれ?吉野くんどうしたの」


吉野はふいっと視線を外すと、佐渡の方に向けていた体をカウンターの方へと戻した。


「なんでもないです」


うっかり佐渡の誘いに乗って見つめ合ってしまったことで、新鮮さやそれによる良さを感じるよりも、見つめ合っているという事実に心臓が跳ねあがった。じわじわと顔が熱くなってくるのを感じる。


「なんでもないならちゃんとこっち見ないと。見上げられる良さ、吉野くんにもわかってほしいなー」

「わかりました、もう充分わかりました」

「いやいや、まだ全然わかってないよ。俺にはわかる」

「わかってないのは先輩の方ですよ。俺はわかりましたから」

「それはわかったつもりになっているだけだよ吉野くん。それはわかった内には入らないから」